一点だけ注意しておくと、どんな期待リターンを主観的に予測しても、それは分析者の自由だが、現実的に使える値を得るためには、「自分の予測の信頼度(及び疑わしさ)を数値に反映させる方法」を考えておく必要があるということだ。

今回は、単純にビルディング・ブロック方式的なリターンの仮置きで計算してみた。

具体的には、まず、日本株と外国株のそれぞれ債券利回りに対するリスクプレミアムを5%で同じとした。リスクプレミアムは5%~6%の数字が仮定されることが多いので、やや堅めだが無難な数値だと思う。外国株の期待リターンは、為替ヘッジなし・円ベースの期待リターンだ。現実の個人投資家の投資手段を考えると、ETFなどローコストなものを選んでも手数料分をリターンのマイナス要因として見込まなければならないので、「債券プラス5%」は、まずまず現実的な数値だろう。

円ベースで考えたときに、日本株と外国株のどちらの期待リターンが高いかは、何ともいえない。日本経済の潜在成長率は外国(他の先進諸国)よりもさらに低く見積もられることが多いので、日本株の期待リターンが小さいのではないかとお考えの向きもあるだろうが、潜在成長率が低いことが投資家の予想に十分に織り込まれていれば、必ずしも期待リターンは低くならなくてもいい。

なお、為替リスクがあるのに、外国株(ベンチマークはMSCI KOKUSAI)の方がリスクが小さくなるのは、MSCI KOKUSAIが22カ国に分散投資されたポートフォリオだからだ。

外国債券と国内債券は共に1%とした。外国債券を円ベースで見たときに、国内債券とどちらのリターンが高いかについても、どちらとも言い難い。為替のフォワード市場が将来の為替レートの最適な推定値になっている(つまり為替市場が効率的)だと考えた場合とも一致するし、そうでないと考えるとしても、外債あるいは円債の一方の期待リターンが他方と比較して高いと考えられる、安定した、納得的な根拠があるわけではない。

現実に、個人が投資する金融商品について考えると、外貨建債券に分散投資できる手数料が安価な金融商品はほとんどないので、国内債券並みの「1%」という数値は、かなり高めだと理解して置いていいだろう。

リスク拒否度

期待リターンとリスクについて前提条件が決まると、残る前提条件で重要なものはリスク拒否度だ。基本的に、投資家のリスクに対する態度は、リスク拒否度に表れる。

個人の条件は千差万別だが、今回は、「企業年金のポートフォリオとしてはやや保守的」なというくらいの、「0.025」という数値を使ってみた。

0.025の意味だが、たとえば期待リターンが5%、標準偏差で表したリスクが10%、という組み合わせが最適解になり得るくらいのリスクに対する拒否度合いということだ。たとえば同じリスク当たりのリターンを仮定して、「4%と8%」、あるいは「6%と12%」という組み合わせよりも「5%と10%」を選択する、というようなリスクとリターンに対する価値判断を持つ人のリスク拒否度だ。

これと異なるリスク拒否度のケースについては、次回以降に計算例をお見せしようと思っている。

個人の資産配分を理論に沿って行おうとすると、たとえば、期待リターンとリスクの組み合わせを複数見せて、組み合わせに優劣を付けてもらい、そこからリスク拒否度を推定することが、一応はできる。

大雑把な結論

最適化計算の結果は、下の表をご参照いただきたい。最適化計算の際には、全てのアセットクラスについて下限を0%、上限を100%とする制限を付けている。また、年金基金でしばしば用いられる「ホーム・バイアスの条件」(国内株>外国株,国内債券>外国債券、といった国内資産の組み入れを大きくするという条件)は、そもそもリスク、期待リターン、効用関数を定義した趣旨から考えて必要ないので、付加していない。

結果を見ると、保守的なリスク拒否度を用いたので、国内債券が57%強と大きな割合を占めている。また、為替リスクは外国株に割り当てられていて、外国債券は組入れゼロとなっている(上限・下限の条件に制約された結果)。前述のように、現実の個人の場合、アセットクラスとしての「外国債券」はこの計算よりも、もっと条件が悪い。

個人の資産運用の入門的解説書に、外国債券が相当の大きさで(20%以上の場合もある)その本の著者が推奨するアセットアロケーションに組み込まれている場合があるが、ああいうアロケーションは一体、どんな前提条件から計算するのか、筆者は、常々不思議に思っている(たぶん、リスクを具体的に定義することの意味が分かっていないのだろう)。

<表> リスク拒否度λ=0.025のケース
アセットアロケーションの計算

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