今週の為替ウォーキング
今日の一言
「とても良い人」というのは、よく知らない人という意味である。世間がそういう人を「とても良い人」と呼ぶのは、その逆だという証拠が特にないからだし、たいていの人が楽観主義者だからだ
Mrs. Robinson
FOMC(米連邦公開市場委員会)9月の会合において、0.75%の利上げを決定した。6月、7月そして今回と3回連続の大幅利上げだったが、FRBはさらに利上げを続ける考えだ。パウエルFRB議長は、いずれかの時点で利上げペースを緩める時期がくるだろうが、現在の金利は、まだ引き締め段階の最下段にあり、この水準で立ち止まることはないと述べている。
その一方で、FRBは米経済のハードランディングを想定していない。FOMCの経済見通しによると、23年と24年の失業率は4.4%程度まで上昇すると予想していが、現在の3.7%から極端に悪化するというほどでもない。さらに25年には利上げ効果が表れてインフレ率が2.0%まで下がることになっている。
しかしFOMCメンバーのこの予測は「あまりにも楽観的」すぎるとの意見も多い。2年間という短期間でインフレを2%まで押し下げる「劇薬」を使い続けるならば、失業率が4.0%台どころか、7.0%に上昇するとの計算もある。
たとえインフレを目標値まで下げることに成功したとしても、その後の労働市場が何事もなかったかのように新型コロナ前の状態に戻るだろうという想定も疑問だ。現在とは金利水準が全く違っているし、エネルギー価格高騰や世界景気後退の規模など、経済環境は新型コロナ前とは別世界になっている。
したがって将来のシナリオとしては、「インフレ制御に成功するが、景気は悪化する」か、「インフレ制御に失敗して、景気も悪化する」ということになる。「インフレも景気もうまく管理する」というシナリオはFRBによってすでに放棄されている。FRBが目指しているのは前者だが、後者のリスクも高まっている。
米国のインフレは「容認し難い高さだ」と、バイデン大統領は強い懸念を示している。ところが、FRBの利上げは、全てとはいわないが、かなりの部分が中間選挙を意識したバイデン政権による「ハト派的な財政措置」によって相殺されているのも事実だ。例えば、連邦政府による大学生ローンの返済を一部免除する計画は、貯蓄の増加と債務の減少が相まって、インフレ率を0.1から0.3ポイント押し上げる効果があるといわれる。
パウエルFRB議長は、インフレの兆しが経済のどこかに出現するたびに、利上げというハンマーで必死にモグラ叩きゲームをしている。しかし、FRBがいくら利上げしたところで、ロシアがウクライナから撤退するわけでも、農作物の収穫量が増えるわけでもない。
達観している日本銀行は、芸術的レベルまで磨き上げられた「音無の構え」政策を実施中だ。つまりインフレにも円安にも何もしなかったし、これからも何もするつもりはないようだ。