急激な円安、急速な米国株安、足したらプラマイゼロ?

 なんとなく資産運用を始めたとしても、リアルのマーケット変動があなたの資産額を増減させていることを少しずつ理解し始めます。

 過去一年の推移でみればダウ工業株30種平均が最高値からの下落率23%というところまできました。ここが底となるのか、ハードランディングの着地点はさらに低いところにあるのかまだ分かりませんが、痛烈な下落です。

 過去一年の推移でみれば、米ドル/円の円安推移も大きくなり25%超という極端な変化が生じています。日米間の経済政策および経済状況を踏まえればそう簡単には解消できない変化が起きています。(いずれも執筆時点)

 ところが、外国の資産に投資をしている個人投資家には奇妙な現象が起きています。「円安によるプラス」と「米国株安によるマイナス」が相殺されているような現象です。

 米国株式(S&P500種指数)で運用するとある投資信託は米国の株式市場の下落がチャートに現れていません。確かに上下動はしているのですが、年初からの推移はおおむね横ばいです。

 もちろんまったく同じ時期に円安や米国株安が生じるわけではないので、上下動が生じるのですが、ある意味「プラマイゼロ」のような現象が起きています。

 個人投資家としてはこの状況をどう考えるべきでしょうか。

運用としては「足し算でもOK」、事実としては個別に理解しておく

 運用成績を考えるとき、基本的には「トータルで増えているかどうか」を見る必要があるので、円安と米国株安を足し算した数字で理解してOKです。投資信託であれば運用報告に現れる基準価額の推移をまずは確認してみます。

 ただし、その運用成績がほとんどプラスマイナスゼロであったとしても、構成要素として強烈な円安による円評価をした場合の資産価値の増加があった半面、強烈な株価下落に伴うマイナスという要素も加わってプラスマイナスゼロに近い状態にあるということは理解しておく必要があります。

 円安問題、米国株安、それぞれニュースを見ればいやがおうでも目にすることになるので理解をされているとは思います。

 為替をヘッジしない資産運用を行うということは、当該外国のアセットクラスの騰落と、為替レートの騰落の二つの影響を受けていることを理解する、ある意味絶好の教材となっているともいえます。

 こういう時期は、興味関心に沿って投資信託などの運用報告を見てみましょう。運用報告のタイミングによっては、X月末で作られたレポートのように、現在の情勢と変化していることもありますので注意してみてください。

近いうちに「円高、米国株高」だってありうる。そのときどう評価するか頭の整理をしておこう

 ところで、こういうマーケットは今後もやってきます。さらに「円安×米国株安」となるかもしれません。逆に「円高×米国株高」だって起こりえますし、「円高×米国株安」だってありえます。「円安×米国株高」もしかりです。

 経済評論家にとっては、四つのシチュエーションは別々の意味を持ちますし、それをどう解説するかが仕事ですが、個人投資家にとってはそれを理解し、また先読みできるかどうかはなかなか難しい判断です。

 今後の経済変動があったとき、自分は今の投資を続けていくことができるか、という自問自答をするためにも、こうした市場の変化はよいきっかけです。

 例えば「円高にしばらく逆転し、かつ米国株価はさらに値下がりをする」のような局面が生じたとき、中長期にみて資産形成を続けていくことはできるでしょうか。

 投資をすれば増える、というイメージがおおむね国内でも海外でもそのまま具現化してきたこの数年間と違い、これからの投資スタンスを少し考えてみてください。

 なお、よく分からない人は「さらに5年、10年先をにらむなら、短期的な下落は気にせず、積立投資を続けていこう」と考えてみることをおすすめします。

(あなたが経済の回復に期待ができるのであれば。世界の未来はないと思う人は、投資はすぐに中断していただいてもけっこうです)

「既積立分」と「未来の積立分」への影響も考えてみるといい

 私はしばしば「売り時はマーケットではなく、自分自身の心の中にある」という言い方をします。マーケットを読んでの判断は難しいことですが、自分のリスク許容度の変化は判断しやすく、また後悔のしない投資判断にしやすいからです。

 こういうややこしいマーケットのときにも投資判断は自分の心の内に問いかけてみることをおすすめします。

 例えば、あなたの資産形成は登山で言えば何合目くらいにいると考えるでしょうか。あなたの想定するゴール(多くの場合はリタイア)が10年を切っているところに近づいている場合は、8合目くらいまでもう登っているといえます。

 この場合、残りの投資期間を考えつつ「自分の資産に占める投資ウエートはどのくらいが適当か」考えてみて、投資が重すぎると感じられるなら一定割合手放してみるのもいいでしょう(資産配分の見直しに基づく売却判断)。それは損失が出るかどうかとは関係なく行動すべき判断事項です。

 逆にまだアラサーの年代で積立を始めたばかりというなら、登山ルートもまだ2合目あたりということになるでしょう。マーケットの天候は何度か変わります。

 大荒れになるとき、好天に恵まれてぐんぐん成長できるときがやってきますが、そのとき投資から手を引いた状態では稼げるものも稼げないことになります。この場合は中長期投資を続けていけばいいでしょう。

 値下がりしている局面というのは、「既積立分」は含み損を抱えますが、「未来の積立分」は安値での新規購入を行うということでもあります。積立投資家のチャンスはそこにあります。

 いくつかの論点を示してみました。円安と米国株安がおおむねプラマイゼロになっている今だからこそ、「未来の自分の投資スタンス」を考える時間をつくってみてはどうでしょうか。