インフレに対する最良の防御策は、自分自身のスキルに投資すること

 今年4月末にネブラスカ州オマハで開かれたバークシャー・ハサウェイの年次総会は3年ぶりのリアルでの開催となった。今回の総会にはJPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOが初めて参加した他、マイクロソフトが買収したアクティビジョンのCEOやアップルのティム・クックCEOも出席していたという。

 バフェットが永年のビジネスパートナーであるチャーリー・マンガーと共に会場のステージに登場すると株主から大きな拍手が湧き起こった。

 バフェットは冒頭「ここに戻ってくることができて気分がいい」と述べ、「私たち2人(バフェットとマンガー)の年齢を合計すると190歳だ。もしあなたが会社のオーナーで、98歳と91歳が会社を経営しているのなら、実際に2人の姿を見ておかなくちゃならない」と、ジョークで株主を迎えた。

 総会の目玉はバフェットとマンガーが長時間にわたり株主からの質問に直接答えるQAと長老2人の丁々発止のやりとりであろう。今回の質疑応答は5時間近くに及び、その中でバフェットは、インフレは株式投資家を「だます」とした以前の発言通り、「インフレは債券投資家をも欺く。マットレスの下に現金を置いている人も騙される。ほとんど全ての人を騙すのだ」と述べた。

「問題は、インフレがどの程度進行するかであり、その答えは誰にも分からない」とし、インフレの行方を予測できると主張する人たちの意見に耳を傾けないよう注意を促した。バフェットはインフレに対する最良の防御策は自分自身のスキルに投資することだと強調した。

 一方のマンガーは、インフレが高騰している中でどのような銘柄に投資するかという質問を受け、具体的な投資先は明らかにしなかったものの、投資しない場所としてビットコインを取り上げた。「自分の退職金口座を持っていて、親切なアドバイザーが全財産をビットコインに入れるように勧めてきたら、ノーと言えばいい」とコメントした。

ビットコイン/円(日足)

出所:石原順

 投資に関しては「王道の答え」などない。ちまたにはバフェットの投資に関する記事や本があふれているが、そっくりそのまままねをしたところで勝てるわけではない。誰もバフェットにはなることはできない。

 バフェットは投資のタイミングや銘柄を見定めることについて、「相談して決めようと思う時、私は鏡を見るのだ。なぜこの会社を買収するのかという題で1本の小論文を書けないなら、100株を買うこともやめた方がいい」と語っている。相場の世界においては、世間を眺めて判断していては正しい判断ができない。世間と「逆」が富を生み出すのである。

「チャンスと絵は少し離れて見たほうがよく見える」、「株は単純。みんなが恐怖におののいているときに買い、陶酔状態の時に恐怖を覚えて売ればいい」、「時代遅れになるような原則は、原則ではない」、「近視眼的(マイオピック)な投資では理性を失い、結果としてお金と時間を失う」、「リスクとは、自分が何をやっているかよくわからない時に起こるものだ」というバフェットの言葉を、我々は今一度考えなくてはいけない投資環境の中にいる。

 大化け株などで一時的に大きな資金を得たとしても、運だけで得たあぶく銭はすぐに泡と消える傾向が高い。投資を事業として長く続けたいのであれば、安定した王道銘柄への投資が必須である。

 バフェットの成功の裏にあるのは地道な投資を淡々と継続していることであろう。一時のはやり銘柄に乗るのは否定しないが、一発銘柄や飛び道具的な材料株に乗って射幸心を高めてしまうと、オール・オア・ナッシングの世界に引き込まれてしまい、長く投資の世界で生き残ることはできない可能性が高まる。

「Price is what you pay, value is what you get」
「価格とは何かを買うときに支払うもの、価値とは何か買うときに得るもの」(ウォーレン・バフェット)