バフェットの次の狙いはオクシデンタル・ペトロリアム(OXY)の完全買収?
米著名投資家のウォーレン・バフェットが率いる投資会社バークシャー・ハサウェイ(BRK.B)が、米石油・ガス大手オクシデンタル・ペトロリアム(OXY)への投資を積み増し続けている。
バークシャーが7月7日にSEC(米証券取引委員会)に提出した文書によると、7月5日と6日に約6億9,800万ドルを投入し約1,200万株を取得。バークシャーが保有するオクシデンタル・ペトロリアム(OXY)の合計は1億7,540万株となり、保有比率は18.7%に高まった。
ヤフーファイナンスの記事「Here’s why Warren Buffett bought all the Occidental Petroleum shares he could, even with oil prices well above $100(原油価格が100ドルをはるかに超えているにもかかわらず、バフェットがオクシデンタル・ペトロリアムの株をできる限り買い占めている理由)」によると、バフェットがオクシデンタル・ペトロリアム(OXY)株の追加取得を加速し始めたのは2月下旬のことだという。
きっかけになったのはこの時期に行われたオクシデンタル・ペトロリアム(OXY)のCEOビッキー・ホルブによるアナリスト向けのプレゼンテーションだった。
ホルブが表明した負債の返済計画、自社株買いと配当金支払い計画にバフェットは感銘を受けたとしており、CNBCのインタビューでバフェットは、「彼女(オクシデンタル・ペトロリアムのビッキー・ホルブCEO)は正しい方法で会社を経営している。我々は月曜日に買い始め、買えるだけ買った」と述べた。
オクシデンタル・ペトロリアム(日足)
オクシデンタル・ペトロリアム(OXY)の2021年度の業績は前期から大幅に改善している。2月24日に開催された取締役会において30億ドルの<自社株買いプログラム>も発表された。原油価格が高値圏で推移していることもあり、今期の業績はさらに拡大することが見込まれる。
オクシデンタル・ペトロリアム(OXY)の売上高と純利益
次にオクシデンタル・ペトロリアム(OXY)のキャッシュフローマトリックスを確認してみよう。
キャッシュフローマトリックスは縦軸に投資キャッシュフロー、横軸に営業キャッシュフローをとったものである。
投資キャッシュフローは将来のキャッシュを生み出すために使われる先行投資である。企業が成長している時期にはキャッシュが設備投資などに使われるためキャッシュが出ていき、基本的にはマイナスとなる。投資が進み、キャッシュが稼げるようになると、リターンが生み出され営業キャッシュフローがプラスとなる。
多くの企業は営業キャッシュフローがプラスで投資キャッシュフローがマイナスであることから、以下の図の右下の領域に入る。その中でも稼ぎよりも投資の方が多い場合には「投資期(1)」に入り、稼ぎのほうが投資よりも大きければ「安定期(2)」 となる。
企業に投資先がなく、それまでに投資してきたものを売却するようになると投資キャッシュフローはプラスに転じ「停滞期(3)」となる。投資をしなければおのずと稼ぎも減ってくるため、営業キャッシュフローが減少する「低迷期(4)」に入り、さらに稼ぎが減少すると「後退期(5)」となる。そして営業キャッシュフローがマイナスとなると「破たん期(6)」となる。
キャッシュフローマトリックス
オクシデンタル・ペトロリアム(OXY)のキャッシュフローマトリックス(2017年~2021年)
バフェットの投資先を選ぶ基準は極めてシンプルだ。それはキャッシュフローに始まりキャッシュフローに終わる。
バフェットが買収する企業はキャッシュを安定的に生み出す企業だ。上記はオクシデンタル・ペトロリアム(OXY)のキャッシュフローマトリックスである。2019年にアナダルコ買収に伴う投資キャッシュフローがかさんだが、それを除いた年度は「安定期」にプロットされている。
エネルギーセクターはS&P500種指数の中でも他のセクターを大幅にアウトパフォームしているが、中でもオクシデンタル・ペトロリアム(OXY)の株価パフォーマンスはシェブロンやエクソンを上回っており、株価は年初来でほぼ倍になっている。
オクシデンタル・ペトロリアム、シェブロン、エクソンの年初来の株価上昇率(2022年7月8日時点)
オクシデンタル・ペトロリアム(OXY)は米国の大手石油会社の一つで、米国において多くの資産を保有している。一連の投資を通じてバフェットは米国における優れた資産を手に入れたことになる。
実はバークシャーは傘下にパシフィックコープやミッド・アメリカン・エナジーなどの電力会社、石油や天然ガスのパイプライン、再生可能エネルギーの会社を数社所有しており、石油・エネルギー事業は、バークシャーの事業全体の中で重要な位置を占めている。
バフェットは今後、オクシデンタル・ペトロリアム(OXY)の信用状況が改善されれば、同社を完全買収する可能性もあるだろう。再生可能エネルギーが将来的に普及することが想定される一方で、最近のサプライチェーンの混乱やオイル価格の高騰は改めて、化石燃料の重要性を際立たせることになっている。
積極的な投資でバークシャーの手元キャッシュが減少
前述のオクシデンタル・ペトロリアム(OXY)への投資加速を含め、バークシャーは今年1-3月期には2008年以来となる規模で普通株への投資を行った。5月にSECに提出された2022年3月末時点のフォーム13Fからバークシャーの上場株への投資状況を確認しておこう。以下は前回2月に発表された2021年12月末時点との保有株式を比較したものである。
2022年3月末時点のバークシャー・ハサウェイが保有する米国上場株式(緑:新規投資 赤:売却)
アップル(日足)
コカ・コーラ(日足)
シェブロン(日足)
バークシャー・ハサウェイ(日足)
マイクロソフトが買収する予定のゲームソフト大手アクティビジョン・ブリザード(ATVI)へ追加投資した他、パソコンメーカーのHP(HPQ)、自動車販売店やその顧客に金融サービスや保険商品を販売するアライ・ファイナンシャル(ALLY)、石油化学製品・プラスチック製品などを製造するセラニーズコーポレーション(CE)などの株式を新たに取得した。
また、6年ぶりの完全買収も行った。3月21日には保険会社のアレゲニー・コーポレーション(Y)を116億ドル(約1兆3,800億円)で買収すると発表した。この取引は2021年12月末時点のアレゲニーの企業価値の1.26倍で実行され、2022年第4四半期に完了する予定とのこと。
アレゲニー・コーポレーション(日足)
アレゲニーの2021年度の業績は売上が前年同期比35%増となる120億ドル、純利益は10億ドルだった。
アレゲニー・コーポレーションの業績推移
アレゲニーの2018年から2021年までの4年間の営業キャッシュフローと投資キャッシュフローをプロットするといずれも「安定期」にあることがわかる。
アレゲニー・コーポレーションのキャッシュフローマトリックス(2018~2021年)
こうした投資により2021年末時点で過去最高に近い水準にあったバークシャーの手元資金は今年3月末時点で1,063億ドルと、昨年末時点の1,467億ドルから、約400億ドル減少した。
バークシャーの現金ポジションとNYダウの推移
インフレに対する最良の防御策は、自分自身のスキルに投資すること
今年4月末にネブラスカ州オマハで開かれたバークシャー・ハサウェイの年次総会は3年ぶりのリアルでの開催となった。今回の総会にはJPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOが初めて参加した他、マイクロソフトが買収したアクティビジョンのCEOやアップルのティム・クックCEOも出席していたという。
バフェットが永年のビジネスパートナーであるチャーリー・マンガーと共に会場のステージに登場すると株主から大きな拍手が湧き起こった。
バフェットは冒頭「ここに戻ってくることができて気分がいい」と述べ、「私たち2人(バフェットとマンガー)の年齢を合計すると190歳だ。もしあなたが会社のオーナーで、98歳と91歳が会社を経営しているのなら、実際に2人の姿を見ておかなくちゃならない」と、ジョークで株主を迎えた。
総会の目玉はバフェットとマンガーが長時間にわたり株主からの質問に直接答えるQAと長老2人の丁々発止のやりとりであろう。今回の質疑応答は5時間近くに及び、その中でバフェットは、インフレは株式投資家を「だます」とした以前の発言通り、「インフレは債券投資家をも欺く。マットレスの下に現金を置いている人も騙される。ほとんど全ての人を騙すのだ」と述べた。
「問題は、インフレがどの程度進行するかであり、その答えは誰にも分からない」とし、インフレの行方を予測できると主張する人たちの意見に耳を傾けないよう注意を促した。バフェットはインフレに対する最良の防御策は自分自身のスキルに投資することだと強調した。
一方のマンガーは、インフレが高騰している中でどのような銘柄に投資するかという質問を受け、具体的な投資先は明らかにしなかったものの、投資しない場所としてビットコインを取り上げた。「自分の退職金口座を持っていて、親切なアドバイザーが全財産をビットコインに入れるように勧めてきたら、ノーと言えばいい」とコメントした。
ビットコイン/円(日足)
投資に関しては「王道の答え」などない。ちまたにはバフェットの投資に関する記事や本があふれているが、そっくりそのまままねをしたところで勝てるわけではない。誰もバフェットにはなることはできない。
バフェットは投資のタイミングや銘柄を見定めることについて、「相談して決めようと思う時、私は鏡を見るのだ。なぜこの会社を買収するのかという題で1本の小論文を書けないなら、100株を買うこともやめた方がいい」と語っている。相場の世界においては、世間を眺めて判断していては正しい判断ができない。世間と「逆」が富を生み出すのである。
「チャンスと絵は少し離れて見たほうがよく見える」、「株は単純。みんなが恐怖におののいているときに買い、陶酔状態の時に恐怖を覚えて売ればいい」、「時代遅れになるような原則は、原則ではない」、「近視眼的(マイオピック)な投資では理性を失い、結果としてお金と時間を失う」、「リスクとは、自分が何をやっているかよくわからない時に起こるものだ」というバフェットの言葉を、我々は今一度考えなくてはいけない投資環境の中にいる。
大化け株などで一時的に大きな資金を得たとしても、運だけで得たあぶく銭はすぐに泡と消える傾向が高い。投資を事業として長く続けたいのであれば、安定した王道銘柄への投資が必須である。
バフェットの成功の裏にあるのは地道な投資を淡々と継続していることであろう。一時のはやり銘柄に乗るのは否定しないが、一発銘柄や飛び道具的な材料株に乗って射幸心を高めてしまうと、オール・オア・ナッシングの世界に引き込まれてしまい、長く投資の世界で生き残ることはできない可能性が高まる。
「Price is what you pay, value is what you get」
「価格とは何かを買うときに支払うもの、価値とは何か買うときに得るもの」(ウォーレン・バフェット)
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