貿易収支の赤字転落は構造改革の成果
日本の経常収支(季節調整済)の黒字が急速に減少しています。資源高によって輸入が増加する中、輸出があまり増えず貿易収支の赤字が拡大したことが要因です。円安によって輸入コストはさらに拡大しています。この話も、悪い円安説を強調するのにやや意図的に使われていると思います。
日本の経常収支(季節調整済)、月次推移:2000年1月~2022年2月(速報値)
日本の経常収支は、失われた10年と言われる1990年代でも常に黒字でした。それが、東日本大震災後、原発停止による電力不足を補うために、LNGの輸入を高値で急速に増やした影響が出て、2013年以降、一時赤字に転落しました。その後、電力需給は正常化し、原油価格が大きく下落したので、経常収支はまた黒字に戻りました。ところが今、原油価格の高騰で黒字が大幅に減っています。
経常収支黒字の減少は、資源高だけが原因ではありません。半導体不足や上海の都市封鎖などの影響で、自動車生産が滞り、輸出が伸びなくなっている面もあります。半導体不足や中国での都市封鎖が解消すれば、輸出は再び拡大すると思われます。
また、インバウンド(外国人観光客)需要の消失によってサービス収支の黒字が稼げなくなっている要因もあります。日本が観光客の受け入れを再開すれば、円安効果もあって外国人観光客の流入は大きく伸びると思われます。そうなれば、インバウンド需要の拡大によって経常収支が拡大すると思われます。
このように、足元の経常収支黒字の減少を、すべて「悪い円安」のせいにするのは誇張と思います。半導体不足やコロナの影響が低下すれば、日本の経常収支黒字は再び拡大すると予想されます。
さらに言うと、資源高も長い目で見て、日本企業にとってマイナスとは思いません。資源高が長期化すれば経常収支にとって大きなマイナスとなりますが、日本企業の競争力にはプラスに働くと思います。というのは、日本企業は、省エネ環境技術で、世界トップクラスにあるからです。その技術の価値が、資源価格が大きく下がる中で低下していました。資源価格の上昇によって、低燃費高性能の日本のガソリン車などを始めとする、日本の技術に再び脚光が当たると考えています。
そう考えると、資源高は、日本株にとって単純にマイナスとはいえないと思います。