米金利上昇で、ドル高(円安)進む
為替市場でドル高(円安)が急速に進み、ついに1ドル=130円台をつけました。円安が、日本経済が沈んでいく姿を表しているという人もいますが、私はそうは思いません。ただ日米金利差の拡大を織り込んで動いているだけだと考えます。
ドル/円為替の長期的な動きは、ほとんど日米金利差で説明できます。もっとも良く動きを説明できるのは、2年金利差です。2年金利差というのは、米国と日本の2年国債利回りの差です。
日米の2年金利(残存2年の国債利回り)と日米金利差(2年金利の差):2008年1月~2022年5月(9日)
それでは、ドル/円の動きと日米2年金利の差を比較した以下のグラフをご覧ください。
ドル/円為替レートと、日米2年債利回りの差:2008年1月~2022年5月(9日)
ドル/円を動かしている主因は、日米金利差です。FRB(米連邦準備制度理事会)が急激な引き締めを示唆する中、日銀は異次元緩和を維持する構えであることから、米金利が上昇、日米金利差が拡大しています。これを見て、国際間を飛び回る投機マネーが、ドル買い・円売りに動いていることが急激な円安を招いています。
2008年以降の動きを見ると、おおむね日米2年金利差と、ドル/円は連動していることが分かります。
【1】2008~2012年
日米金利差の縮小にしたがって、円高(ドル安)が進みました。
【2】2013~2014年
日米金利差が少ししか拡大していないのに、大幅な円安(ドル高)が進みました。2年金利の差では説明できない程の円安となりました。日銀が異次元緩和を実施する中、FRBが金融引き締めに動いていたことが、急な円安を招きました。
【3】2015~2018年
日米金利差が拡大する中で、円高が進みました。2013~2014年の行き過ぎた円安に修正が起こったと見ることができます。2016年に、米大統領選キャンペーンで共和党候補だったドナルド・トランプ氏(米前大統領)と民主党候補だったヒラリー・クリントン氏が、ともに円安を批判したことも円高材料となりました。トランプ前大統領が当選した後も、日本の対米黒字を問題視し続けたため、潜在的な円高圧力が続きました。
【4】2019~2020年
日米金利差が縮小するにしたがって、円高が進みました。
【5】2021~2022年
日米金利差が拡大にしたがって、急激な円安が進んでいます。
円安は日本の企業業績にプラス?マイナス?
今また、急激な円安が進んでいます。「悪い円安」と言われます。私は、悪い円安説は誇張されていると思います。確かに、円安は生活者の眼から見ると明らかにマイナスです。円安によってガソリンなどの輸入物価が上昇することは、年金生活者などにとってマイナス効果しかありません。「悪い円安」というのは、生活者の視点に立ったコメントだと思います。
企業収益の観点にたてば、円安には大きなプラス効果があります。海外現地生産が当たり前になった今日、円安によって輸出が増える効果は限定的です。それでも、海外の現地生産・現地販売であげているドル建ての海外利益の円換算額が、円安によってふくらむ効果は大きな増益要因です。
円安が企業業績にプラスに働くには、1つ重要な条件があります。米国景気が好調という条件です。米国景気が好調で、かつ円安が進む時に、円安メリットで海外収益がふくらみます。米国景気が不振であれば、円安が進んでもそのメリットは小さくなります。とりあえず、まだ米国景気は好調です。1-3月の米GDP(国内総生産)が前期比年率▲1.4%と、マイナスでした。ただし、輸入急増・在庫減少によるテクニカルなマイナス成長で、消費や設備投資は好調で増加していました。
円安(ドル高)が進む時は、たいがい米国景気は好調です。米国景気が好調でドル金利が上昇するために、円安(ドル高)が進むからです。もし、米景気が失速すると、ドル金利が下がり円高(ドル安)に転じる可能性が高くなります。その経験則からは、円安が進んでいる限り、米国景気は好調と言え、それは日本企業の海外収益の拡大に寄与するということです。
一方、円安には輸入コストの増加を通じて、企業業績にマイナスの影響もあります。輸入企業、内需企業にとっては円安はコスト高に直結し、マイナスに働きます。日本では、輸入物価上昇の小売価格への転嫁があまり進んでいないので、それが企業収益を圧迫する可能性があります。ただし、もしこれからコロナ感染の影響が縮小してリオープン(経済再開)が進めば、日本でも消費の急回復があるかもしれません。私は数量増によって、円安のコスト増はかなりカバーできると考えています。
ところで、輸入物価の上昇をすべて「悪い円安」のせいにする風潮がありますが、それも誇張だと思います。というのは、輸入原材料が高騰している主因は、資源価格の上昇だからです。円安によって輸入物価がさらに押し上げられている効果もありますが、円安だけで価格が上昇しているわけではありません。純粋に円安効果だけを計測すれば、企業業績にとって、プラス効果がマイナス効果を上回ると考えています。
貿易収支の赤字転落は構造改革の成果
日本の経常収支(季節調整済)の黒字が急速に減少しています。資源高によって輸入が増加する中、輸出があまり増えず貿易収支の赤字が拡大したことが要因です。円安によって輸入コストはさらに拡大しています。この話も、悪い円安説を強調するのにやや意図的に使われていると思います。
日本の経常収支(季節調整済)、月次推移:2000年1月~2022年2月(速報値)
日本の経常収支は、失われた10年と言われる1990年代でも常に黒字でした。それが、東日本大震災後、原発停止による電力不足を補うために、LNGの輸入を高値で急速に増やした影響が出て、2013年以降、一時赤字に転落しました。その後、電力需給は正常化し、原油価格が大きく下落したので、経常収支はまた黒字に戻りました。ところが今、原油価格の高騰で黒字が大幅に減っています。
経常収支黒字の減少は、資源高だけが原因ではありません。半導体不足や上海の都市封鎖などの影響で、自動車生産が滞り、輸出が伸びなくなっている面もあります。半導体不足や中国での都市封鎖が解消すれば、輸出は再び拡大すると思われます。
また、インバウンド(外国人観光客)需要の消失によってサービス収支の黒字が稼げなくなっている要因もあります。日本が観光客の受け入れを再開すれば、円安効果もあって外国人観光客の流入は大きく伸びると思われます。そうなれば、インバウンド需要の拡大によって経常収支が拡大すると思われます。
このように、足元の経常収支黒字の減少を、すべて「悪い円安」のせいにするのは誇張と思います。半導体不足やコロナの影響が低下すれば、日本の経常収支黒字は再び拡大すると予想されます。
さらに言うと、資源高も長い目で見て、日本企業にとってマイナスとは思いません。資源高が長期化すれば経常収支にとって大きなマイナスとなりますが、日本企業の競争力にはプラスに働くと思います。というのは、日本企業は、省エネ環境技術で、世界トップクラスにあるからです。その技術の価値が、資源価格が大きく下がる中で低下していました。資源価格の上昇によって、低燃費高性能の日本のガソリン車などを始めとする、日本の技術に再び脚光が当たると考えています。
そう考えると、資源高は、日本株にとって単純にマイナスとはいえないと思います。
時間分散しながら日本株を買い増しすべきとの判断を継続
私は、円安が続いている間は、日本株の下値は限定されると予想しています。先に説明した通り、円安が続くということは、米国景気は好調で、日本企業の海外収益拡大が期待できるからです。メインシナリオでは、米景気は減速しつつも巡航速度での拡大が続くため、円安が進む中で日経平均株価はそろそろ底打ちが見込まれます。
ただし、リスクシナリオでは、これから米景気が悪化します。そうなると、円安(ドル高)は終わり、円高(ドル安)に転じる可能性があります。その時は、外国人の売りによって、日経平均は下値トライすることになるでしょう。
メインシナリオが実現するか、リスクシナリオが実現するか、現時点で分かりません。先行きのことを予測することは不可能です。両方のシナリオを考え、時間分散しながら割安と考えられる日本株を買い増ししていくことが、長期の資産形成に寄与すると考えています。
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