円安は日本の企業業績にプラス?マイナス?

 今また、急激な円安が進んでいます。「悪い円安」と言われます。私は、悪い円安説は誇張されていると思います。確かに、円安は生活者の眼から見ると明らかにマイナスです。円安によってガソリンなどの輸入物価が上昇することは、年金生活者などにとってマイナス効果しかありません。「悪い円安」というのは、生活者の視点に立ったコメントだと思います。

 企業収益の観点にたてば、円安には大きなプラス効果があります。海外現地生産が当たり前になった今日、円安によって輸出が増える効果は限定的です。それでも、海外の現地生産・現地販売であげているドル建ての海外利益の円換算額が、円安によってふくらむ効果は大きな増益要因です。

 円安が企業業績にプラスに働くには、1つ重要な条件があります。米国景気が好調という条件です。米国景気が好調で、かつ円安が進む時に、円安メリットで海外収益がふくらみます。米国景気が不振であれば、円安が進んでもそのメリットは小さくなります。とりあえず、まだ米国景気は好調です。1-3月の米GDP(国内総生産)が前期比年率▲1.4%と、マイナスでした。ただし、輸入急増・在庫減少によるテクニカルなマイナス成長で、消費や設備投資は好調で増加していました。

 円安(ドル高)が進む時は、たいがい米国景気は好調です。米国景気が好調でドル金利が上昇するために、円安(ドル高)が進むからです。もし、米景気が失速すると、ドル金利が下がり円高(ドル安)に転じる可能性が高くなります。その経験則からは、円安が進んでいる限り、米国景気は好調と言え、それは日本企業の海外収益の拡大に寄与するということです。

 一方、円安には輸入コストの増加を通じて、企業業績にマイナスの影響もあります。輸入企業、内需企業にとっては円安はコスト高に直結し、マイナスに働きます。日本では、輸入物価上昇の小売価格への転嫁があまり進んでいないので、それが企業収益を圧迫する可能性があります。ただし、もしこれからコロナ感染の影響が縮小してリオープン(経済再開)が進めば、日本でも消費の急回復があるかもしれません。私は数量増によって、円安のコスト増はかなりカバーできると考えています。

 ところで、輸入物価の上昇をすべて「悪い円安」のせいにする風潮がありますが、それも誇張だと思います。というのは、輸入原材料が高騰している主因は、資源価格の上昇だからです。円安によって輸入物価がさらに押し上げられている効果もありますが、円安だけで価格が上昇しているわけではありません。純粋に円安効果だけを計測すれば、企業業績にとって、プラス効果がマイナス効果を上回ると考えています。