3.インテルがパソコン用CPU市場で巻き返す
グラフ6、7は、各々デスクトップPC用CPU、モバイル用CPU(ノートブックPC用など)の市場シェアの推移を見たものです。デスクトップPC用CPUは2021年4-6月期から、モバイル用CPUは2021年10-12月期からAMDの市場シェアが下落し、インテルのシェアが上昇しています。
この理由としていわれているのが、それまであったインテル製CPUとAMD製CPUの価格差がなくなってきたことです(もともとAMD製CPUはインテル製よりも安くて高性能だった)。今のインテル製CPUは増産投資をしているものの技術としては古い10ナノから昔のラインで生産しており、その分価格は高くなっていない模様です。一方でAMDの7ナノCPUはTSMCの先端ラインで生産しており、これも増産投資を行っているため、減価償却の増加分など調達コストが上昇していると思われます。そのため、同等の能力のCPUの場合、インテル製とAMD製の価格差がなくなっているようであり、これがAMDのパソコン用CPUにおけるシェア低下につながっている模様です。
AMDの市場シェア低下については、今年後半からの5ナノCPU発売でどの程度取り返せるかが焦点になると思われます。また、2022年後半から2023年前半にかけてサーバー用CPUの高い伸びが続くのであれば、パソコン用で無理をする必要はない(無理に値下げする必要はない)という考え方もできると思われます。この問題も少し時間をかけて観察する必要があります。
また、インテル、AMDの両社にとって新たな脅威が現れています。アップルのパソコン「Mac」です。5ナノの「M1」という優秀なチップセット(CPU、GPUその他の半導体を同じ基板に搭載したもの)を搭載したMacが人気です(M1の生産はTSMC)。Mac全体では、2021年10-12月期までは半導体不足のために出荷台数は前年比8~9%増に止まっているものの、M1搭載Macの性能の高さ、コストパフォーマンスの良さはx86搭載パソコンの脅威です。ただし、アップルはサーバー向け半導体は作っていません。この面からも、インテル、AMD双方にとってサーバー向けCPU、GPUは重要です。
グラフ6 デスクトップPC用CPUの市場シェア
グラフ7 モバイル用CPUの市場シェア
グラフ8 Mac出荷台数
4.我が道を行くエヌビディア、超大型データセンター向けGPUを発表
エヌビディアは2022年3月21-24日、同社最大の技術カンファレンスであるGTC2022カンファレンスを開催しました。その中で、複数の重要製品を発表しました。
この中でエヌビディアの業績にとって最も重要なのが、「NVIDIA H100 GPU」です。超大型データセンター用GPUであり、「Hopper」(ホッパー)という新しいGPUアーキテクチャを採用したGPUです。TSMCの4ナノラインで製造され、1チップで1PFLOPS(ペタフロップス、1ペタ=1,000テラ)を超える性能を実現しています。データセンターは年々巨大化しており、大量の情報を制御するために高性能AIを使っていますが、そのような超大型データセンターを制御するために開発された超大型GPUが「H100」です。
「H100」を搭載したサーバー製品、アクセラレータカードはエヌビディア製、OEMベンダー製ともに、2022年7-9月期に発売される予定です。
「H100」の価格は不明ですが、2年前に発売された前世代の「A100」は1枚百数十万円と言われています。「A100」は大型データセンター中心に出荷され、これがエヌビディアのデータセンター向けビジネスの拡大に大きく貢献したと思われます。データセンターが年々巨大化し複雑化する中で、H100のエヌビディアの業績に与える影響は大きいと期待されます。
また、同じく3月22日に、メタバース開発ツールとして使える「オムニバース」の拡張版として大規模な産業用デジタルツイン(設計図の詳細データを入力すると仮想空間上に3次元映像を表現することができる技術。メタバースの産業利用の代表例)を実現するための「NVIDIA OVX」を発表しました。
エヌビディアはパソコン用GPU(CPU内蔵型を除く)でも大きなシェアを持っています(ただし、暗号資産マイニング向けを含む。どの程度が暗号資産マイニング向けか不明)。データセンター用GPUでも、特に大型、超大型データセンターでは支配的なシェアを持っていると思われます。今後の業績拡大が期待されます。