株式投資には守りも必要。逆境に強そうな企業に注目

 株式市場を取り巻く環境はいつも順風満帆というわけではありません。新型コロナウイルス、これまで何度も訪れた金融不安、海外ではテロや軍事的緊張など、強い逆風に見舞われることもあります。

 株価が日々変動することを頭では理解していても、保有する銘柄が急落すれば、誰もが心配になるものです。値下がりしない株が理想的なのですが、そんな銘柄はありません。

 しかし、値崩れを起こすリスクが小さそうな銘柄を探すことならできます。市場全体で10%値下がりするのを横目に、自分の保有株が3%程度の値下がりにとどまれば、逆風相場のストレスも軽く済みそうです。

 市場全体が大幅に下げた場面がお目当ての銘柄を安く買うチャンスになる、ということが、過去の相場で何度となくありました。買いのチャンスをつかむためにも、市場を取り巻く状況や株価を冷静に観察し、手持ち銘柄が大幅に下落するリスクを避けたいものです。

 そこで、注目したいのは財務状態が安定した銘柄です。本業で黒字経営を続けるだけでなく、保有する現金や資産が厚い企業のことです。手元の現金は、決算短信のうち貸借対照表の「現金・預金」「利益剰余金」や、キャッシュフロー計算書の「現金および現金同等物」でチェックできます。

 業績が悪化すると配当予想を引き下げたり、配当を取りやめてしまうリスクがありますが、手元の現金など資産が豊富にあれば、背伸びして配当を維持することが可能です。多少の逆風でも、経営が揺らがないのです。

 財務が安定している、不安があるなどを測る指標には、自己資本比率(全ての資産のうち返済する必要のない資産の割合)、流動比率(短期的に換金できる資産が短期的に支払わなければならない資産をどれだけ賄えるかを測る指標)、インタレストカバレッジレシオ(借入金などの利息の支払い能力を測るための指標)、ネットキャッシュ/時価総額(借入金を除いた現金の時価総額に占める割合)などがあります。

 それぞれ数値が高いほど、財務の安定性が高いといえます。

自己資本比率(%)=自己資本÷総資産×100
流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100
インタレストカバレッジレシオ(倍)=(営業利益+受取利息+受取配当金)÷支払利息
ネットキャッシュ/時価総額(%)=(現金および現金同等物-有利子負債)÷時価総額×100

地味な印象のある財務安定銘柄だが、これだけある上がる材料

 財務安定性を測る指標は、株価の割高・割安を表すものではありません(ネットキャッシュ/時価総額は別)。財務安定性の高い銘柄のポイントは、倒産する可能性が低い、前に述べた通り減配の可能性が低いなど、株価が下落するリスクが低いということです。

 ほかにも、公募増資(新たな株式を発行して資金を集めること:株数が増えるので、元の株主が持っている価値がその分減ってしまう)などのリスクが低いということもできます。

 これまで、財務が安定しているというだけでは、下値が堅いというだけで値上がりにはつながらない、面白みのない銘柄という面もあったように思います。ただ、最近では、投資環境の整備が進んだため、現金など資産が豊富な会社には、「利益の還元を求める株主の圧力」という買い材料が見いだせるようになってきました。

 かつて会社に対して配当の増額を要求するのは「モノ言う株主」「アクティビィスト」などと呼ばれる投資ファンドがもっぱらでした。しかし、現在では投信運用会社や年金基金なども企業に対して積極的に利益の還元を働きかけています。

 背景には、2014年に金融庁が制定した「スチュワードシップ・コード(機関投資家の行動指針)」があります。機関投資家とは、誰かのお金を大量に預かって運用する会社や団体のことです。

 スチュワードシップ・コードに法的な拘束力はありませんが、今では運用業界の主流です。この指針の中で、運用会社は投資先企業の経営を監視し、お金を預けてくれた顧客の利益を守るよう求められています。

 毎年の利益を積み上げるだけで配当を増やさず、設備投資や買収など成長のために使う様子もない「ため込みすぎ企業」は、株主の圧力で配当金を増やしてくる可能性があります。とくに配当性向(1株当たり利益に占める配当金の割合)が低い銘柄などには、よりプレッシャーが強まりやすくなっています。現在では、配当性向は30%程度を目安とする銘柄が多いようです。

 配当だけではなく、自社株買いを実施すべきといった要求も増えてきています。加えて、こうした要求が通りやすい状況になっているため、投資ファンドが強い財務内容の株を買い進める動きも広がっています。投資ファンドが大株主に登場するだけでも、株価の上昇材料になるといえるでしょう。

 財務や現金に余裕があると、機動的な経営がしやすい面もあります。ある製品の需要が急激に高まった場合には、増産するために積極的な設備投資が行えます。また、グループに取り込むべき有望な企業が見つかった場合も、早めに買収を実施することが可能となるでしょう。

 これらを考えると、財務体質の良い銘柄は、経営次第で成長の可能性が高い銘柄であるということもできます。

 以下の銘柄は、五つのポイントでセレクトしました。ぜひ参考にしてください。

  • 15万円以下で買える
  • 自己資本比率が70%以上
  • ネットキャッシュ/時価総額が30%以上
  • 今期の純損益が黒字・有配予想
  • 時価総額500億円以上

初めてでも選びやすい財務安定株10選

※株価は3月24日現在
※キャッシュ比率はネットキャッシュ/時価総額×100
※自己資本比率やキャッシュ比率は2021年3月期実績(大和冷機、三菱鉛筆は2021年12月期)
※時価総額は2021年4-12月期(大和冷機、三菱鉛筆は2021年12月期)の発行済み株式数を基に算出
※自己資本比率の高い順

大和冷機工業(6459)
株価 1,067円
いくらから買える? 10万6,700円
自己資本比率 84.4%
キャッシュ比率 97.7%
どんな会社? 外食産業向けの業務用冷凍冷蔵庫や店舗用ショーケースなどを製造販売。デリバリー対応製品などを積極投入。2022年12月期の経常利益は前期比6.7%減の57億円となる見通し。会計基準の変更を考慮すれば実質横ばいの水準。ユーザーの飲食業界が原材料費上昇という厳しい環境にあるが、デリバリー向けに食品の鮮度維持につながる真空包装機などの需要拡大を見込む。無借金経営で、ネットキャッシュはほとんど時価総額と同水準にある状況。過去に投資ファンドが増配を要求する株主提案を行ったこともある。
テーオーシー(8841)
株価 702円
いくらから買える? 7万200円
自己資本比率 82.7%
キャッシュ比率 43.8%
どんな会社? TOCビルなどの不動産賃貸を手掛ける。クリーニングや温浴施設、スポーツクラブなどの運営も行う。2022年3月期の経常利益は前期比2.8%増の62億円となる見通し。主力の不動産賃貸は横ばいだが、一部事業で新型コロナウイルス禍からの回復を見込めるもよう。商業施設・コンベンションセンターなどの複合施設「TOCビル」(都内品川区)は築後50年を経過し、建て替える計画。新TOCビルは地上30階、地下3階建ての規模で、2027年春の竣工を予定している。
信越ポリマー(7970)
株価 1,094円
いくらから買える? 10万9,400円
自己資本比率 79.8%
キャッシュ比率 50.8%
どんな会社? 信越化学工業子会社の樹脂製品メーカー。半導体ウエハー容器で高い世界シェア(市場占有率)を誇るほか、自動車用キースイッチでも高い実績がある。電子部品用材料、医療用素材なども含め、幅広い産業向けに事業を展開。2022年3月期の経常利益は前期比28.2%増の90億円となる見通し。半導体需要が拡大するなかで、主力のウエハー容器の出荷が好調に推移している。無借金経営で、最近では毎年増配を行っている。半導体関連分野をけん引役として、2023年3月期の業績も安泰と考えられる。
三菱鉛筆(7976)
株価 1,294円
いくらから買える? 12万9,400円
自己資本比率 77.5%
キャッシュ比率 47.7%
どんな会社? 「uni」ブランドで有名な筆記具メーカー。製品別では売り上げの半分がボールペン。海外売上比率は約5割を占めている。2022年12月期の経常利益は前期比4.7%増の87億円となる見通し。海外販売の順調な拡大が見込め、足元での円安進行も追い風となりそう。豊富なキャッシュを背景に、2022年12月期は13期連続となる増配を計画しているほか、新製品開発などに向けた設備投資も積極化していく。中期計画では2024年12月期に売上高710億円が目標。海外筆記具事業や新規事業が売り上げ増をけん引する。
エフ・シー・シー(7296)
株価 1,365円
いくらから買える? 13万6,500円
自己資本比率 74.1%
キャッシュ比率 45.1%
どんな会社? ホンダ系のクラッチ専業自動車部品メーカー。二輪用では世界シェア(市場占有率)5割とトップ。売上高の約4割がホンダグループ向けで、ほかは、米フォード・モーターや米ゼネラル・モーターズ(GM)向けが多い。海外売上比率が約9割。2022年3月期の経常利益は前期比54.0%増の128億円となる見通し。コロナ禍で大きく落ち込んだ自動車生産が回復し、二輪車用、四輪車用ともに売り上げが伸長する。2021年12月にはトヨタ自動車グループのダイハツ工業向けに新規受注を獲得し、顧客層の広がりに注目が集まる。2023年3月期は円安によるプラス効果が強く期待される。
アイダエンジニアリング(6118)
株価 1,090円
いくらから買える? 10万9,000円
自己資本比率 71.2%
キャッシュ比率 38.2%
どんな会社? プレスによる圧力をかけることで加工を行う鍛造(プレス)機械を製造販売する。専業メーカーでは世界第2位の売り上げ規模。ハイブリッド車に使用されるモーターコア(駆動用モーターに使われる部品)の製造に欠かせない高速自動プレスなどで高シェア(市場占有率)を握る。2022年3月期の経常利益は前期比17.3%減の31億円となる見通し。部品不足や物流停滞の影響で、利益率が高い製品の売り上げ計上が2023年3月期にずれ込むもよう。なお、自動車業界で進む電動化は新たな部品のプレス機械が必要となるため、業績の押し上げ要因になる。
テイ・エス テック(7313)
株価 1,433円
いくらから買える? 14万3,300円
自己資本比率 70.9%
キャッシュ比率 78.5%
どんな会社? ホンダ系の自動車部品メーカー。自動車シートが中心で、二輪車用も手掛ける。ホンダグループ向けが売り上げの9割を占めるが、欧米自動車メーカーへの営業展開も積極化している。2022年3月期の税引前利益は前期比19.4%減の292億円となる見通し。コロナの影響を受け、米国、アジア、欧州などで一時工場の稼働停止を余儀なくされたことなどが響いた。シート部品はEV(電気自動車)化のマイナス影響がほとんどないとみられ、PBR(株価純資産倍率)が0.6倍台にとどまっている株価は非常に割安だ。
四国化成工業(4099)
株価 1,378円
いくらから買える? 13万7,800円
自己資本比率 70.5%
キャッシュ比率 31.3%
どんな会社? 化学品事業と建材事業を二本柱で展開。化学品では、自動車タイヤ用の不溶性硫黄(ゴムの弾性を上げるための材料)、プールなどの殺菌・消毒剤、電子部品などの材料が中心。建材では門扉が主力となる。2022年3月期の経常利益は前期比12.5%増の90億円となる見通し。市販用タイヤ向けの不溶性硫黄や米国向けを中心とした殺菌消毒剤など化学品事業がけん引役に。半導体業界で関心が高まっているEUV(極端紫外線)装置向けの材料は成長期待が高い。配当性向が低く、今後の配当金引き上げ余地が大きい。
東京製鉄(5423)
株価 1,210円
いくらから買える? 12万1,000円
自己資本比率 70.4%
キャッシュ比率 29.9%
どんな会社? 国内トップの電炉メーカー。鉄鉱石を原料とする高炉に対して、電炉は鉄スクラップ(鉄くず)を原料に電気炉で鉄鋼を生産する。建設用構造材となるH形鋼や棒鋼などが主要製品。2022年3月期の経常利益は前期比6.6倍の330億円となる見通し。鋼材価格が大幅に上昇していることで、利益率が高まる形になる。毎年、高水準の自社株買いを実施しており、需給面での下支え材料となりやすい。年間配当金も増配を続けているが、2022年3月期の配当性向は10%に過ぎず、一段の引き上げ余地も大きい。
極東開発工業(7226)
株価 1,439円
いくらから買える? 14万3,900円
自己資本比率 70.3%
キャッシュ比率 32.8%
どんな会社? ダンプトラックやコンクリートポンプ車など特装車メーカーのトップ企業。リサイクル施設でも業界トップクラスの実績で、2021年3月末時点で204カ所の納入実績。立体駐車場も手掛ける。2022年3月期の経常利益は前期比9.2%減の84億円となる見通し。特装車事業における原材料費の上昇が減益要因となるもよう。ただ、特別利益を計上することもあって、配当は連続増配を続ける方針。今後はインドやインドネシアなど海外におけるインフラ整備の進展で、特装車事業の海外売り上げ拡大が期待されることが注目点。