国の年金運用をサンプルに、リスクの取り方を検証
公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の資産運用は、リスクを適度にとった資産配分の例として取り上げられることがあります(私も使うことがあります)。単年度ではマイナスパフォーマンスで終わる年があっても、中長期的には年平均3.7%の成績を確保しています。
短期的に投資をやめたり中断しないポートフォリオの例としてもよく引き合いに出されます(公的年金運用ですから、中断はあり得ないわけですが)。
しかし、この数字を個人の「リタイア後運用」に当てはめてみると、興味深い数字が現れます。例えば退職金などの資産がリタイア時点で2,000万円あったとして、年度末ごとに72万円(毎月6万円相当)ずつ取り崩すものとします。これは「老後に2,000万円」問題でも指摘された老後の不足額です。
平均では年3.7%の運用成績を確保しているわけですから、74万円以上の収益を毎年確保しては72万円取り崩すペースとなり、資産は大きく目減りしていないはずです。
ところが、2000年代の前半に何度かマイナス運用を経験してしまったことが影響し、2021年度末の資産額は1,877万円まで目減りしています。
リーマンショック直後(2011年度末)とコロナショック直後(2019年度末)には1,500万円台まで資産額が減少しており、多くの場合、リスク資産運用を中断する判断をしてしまいそうです。老後の資産が含み損を拡大していくのは恐怖であるからです。
ここで、試みに2000~2020年の運用成績を逆に並べ替えてみます。つまりコロナショックからの回復による急騰(2020年度、+25%)が最初で、リーマンからの回復が続き、後半に急落が何度か訪れるような流れです。
先ほどの2,000万円、実は一度も元本を失うことなく、20年間キープし、2,398万円で着地します。引退初年度の運用成績が25%、最初の10年で9%以上の成績をあげた年度が4度あったことが奏功しています。
こうした数字のいたずらを、シークエンス・オブ・リターンリスクと言ったりしますが、「引退年の直後」が「上げ相場」か「下げ相場」かは、セカンドライフの運用に大きな影響を与えるわけです。
リタイア直前、そして直後も 投資比率の判断は慎重に
「リタイアしたら、まとまった資金で投資をする」という素人の投資スタンスがかなり危ないものだということが分かると思います。
もちろん、リタイア後10年くらいのスパンを想定して投資継続ができるのなら、リタイアしてからも資産の一定割合を投資する選択肢は考えられます。それでも、ニューマネーを市場下落~回復期に投入できないことは投資戦略上しんどいものがあります。
「リタイア直前」に投資比率を引き下げることはしばしば問題提起されてきました。企業型確定拠出年金の投資教育などでもプログラムに含まれているようです。個人の理解も進んでいることと思います。
これからはさらに、「リタイア直後」も投資比率を過度に引き上げないことが重要であることを認識したほうがいいでしょう。
※今回のコラムは、筆者も発起人の一人となっている、デキュムレーション研究会での野尻哲史氏の発表に気付きを得ていますので、ここに謝意を表します。