ベビーブーマーよ、さようなら。インフレよ、こんにちは。
今、米労働市場ではベビーブーマー世代の高齢化が刻な問題となっています。
ベビーブームとは、特定の地域で一時的に新生児誕生率(出生率)が急上昇する現象のこと。米国では第二次大戦終結後からケネディ政権発足前までの1946年から1959年ごろに生まれた世代がベビーブーマー (baby boomer) と呼ばれ、ベトナム反戦やヒッピー文化、ウーマンリブ運動の中心世代になりました。
音楽ではロック・シーンの黄金時代を築いたクイーンのフレディ・マーキュリーは1946年生まれ、ビリー・ジョエルは1949年生まれ、マイケル・ジャクソンは1958年生まれ。
FRBや海外投資家が雇用統計でひそかに注目しているのは、失業率よりも「労働力参加率」。労働力参加率とは、生産年齢人口(16歳以上の人口)に占める労働力人口(生産年齢人口のうち「働く意思を表明している人」)の割合のこと。
労働力参加率の上昇は労働力の増加を意味し、賃金上昇圧力やそれに伴う広範なインフレ上昇を緩和する方向に働きます。労働力参加率の低下は逆に、労働市場の逼迫(ひっぱく)化によるインフレ上昇の危険性が高まることで、FRBの金融政策的には利上げの必要性が強くなる。
11月の労働参加率は61.9%。コロナ禍前の2020年2月よりも1.5ポイント低く、いまだにその差を埋められていません。
では、なぜ労働力参加率が下落しているのか。新型コロナ感染拡大によって多くの労働者が強制的あるいは自主的に労働市場から退場したせいです。
楽観的な投資家は、コロナ禍から立ち直った労働者が近い将来戻ってくると期待しています。一方、悲観的な投資家は、ミドル後半世代の早期退職あるいは就業せずに子育てをする流れは止まることはなく、就業者がコロナ前の状態に戻るには非常に長い時間を要すると考えています。
FRBの調査によると後者の可能性が高いことを示しています。調査は労働参加率の低迷は高齢化の進行がほぼ唯一の原因であることを明らかにしました。ベビーブーマー世代が退職年齢に差し掛かったことが理由です。
雇用が伸びないのは、短期的な雇用のミスマッチではなく、高齢化による生産年齢人口の減少という長期的な問題。働く「場所」がないのではなく、働く「意思」がないのだとしたら、いくら政府が労働市場を活性化する施策を打ち出したところで、参加率は上昇しない。
パウエルFRB議長は、1月FOMC(米連邦公開市場委員会)の記者会見で労働参加率に触れ「ある程度の改善を信じるに足る証拠がある」と語っていますが、いつまで楽観的でいられるか興味深いところです。