出題の狙い、「リスク」について

 凡そ全ての試験問題には、「ここに気づいて答えを書いて欲しい!」という出題者の狙いがある。本問にももちろん、それはある。また、後から試験の採点をすることを考えると、採点基準となるポイントを出題の時点であらかじめまとめておく必要がある。

 今回の出題の狙いをご説明しよう。

 先ず、外債投資全般に存在するリスクを的確に列挙して欲しい。外債投資だから、円建てのものでなければ「為替リスク」があるし、社債に限らず債券には「信用リスク」がある。加えて、仮に信用リスクが無いとしても、将来の利回り変動による価格変動のリスク(「金利リスク」としておこうか)があり、ここまでのリストアップは必須だ。

 また、そこまで要求しないが、リスクを列挙するなら、買った債券を売却したい時にすんなり売れるか否かに関わる「流動性リスク」もある。

 問題文が「外債投資に伴うリスクを全て列挙しなさい、そして…」という調子なら、これら全てのリスクの存在に気づくかも知れないが、問題文には、「ダブルA(AA)格の」などとあるので、信用リスクだけに注意を取られてしまった答案が何枚もあった。優しい先生としては、「引っかけ」を目的に問題を作るわけではないのだが、答案の出来不出来には多少の差がある方が、採点は楽しい。

 もっとも、信用リスクについては、ある程度突っ込んだ検討を期待しており、これも採点の際のポイントの一つだ。

 信用リスクについては、

(1)一般に信用リスクの判断は難しいし、完璧を期することは出来ないこと
(2)格付会社の格付は少々の参考にはなるが、格付会社は能力上もビジネスモデル上もとても全面的な信頼に足るものではないこと
(3)個人投資家の場合、資金量の点で分散投資が難しく、信用リスクを考えるとAAといえども個別の債券に投資するのは不適切な場合が多いこと、つまり、機関投資家が信用リスクのある債券に投資できるのは大規模な分散投資が可能だからであること

 以上の3点が論じられていれば、出題の意図を十分に汲んで貰ったことになる。

 ここで、問題文の中の「個人投資家が投資する場合」という部分が生きてくる仕掛けだ。

 本稿は試験の解き方を伝授することを目的とする文章ではないが、たとえば、詰め将棋を解く場合には、一見関係のなさそうな場所に配置された駒が正解への重大なヒントになることが多いように(実は、正解の重要な部分で関係していることが多い)、問題文の中の「余計かも知れない部分」、本問でいうと、「ダブルA(AA)格」や「個人投資家が投資する場合」に出題者の意図が表れている場合があることは覚えておいて損はない。試験は、出題者と回答者の対話なので、出題者がどんな気持ちで問題文を書いたかが分かるまで、問題文をじっくり読むべきだ。