老後に向けて「確実な運用」は公的年金を増やすこと
皆さんが資産形成に取り組む大きな理由の一つとして、「老後の安心づくり」があると思います。未来にわたって経済的安定を得たいというのは、資産運用に取り組む多くの人の望みです。
一方で、公的年金制度については不安と不信が多いと思いますが、実はこの制度も老後に向けた生活の鍵となります。金融庁の試算によって「老後資金に2,000万円」が必要と話題になりましたが、それは公的年金を一般的な水準でもらう前提の話です。
公的年金には、終身給付、つまり生きている限り一生涯もらえるというメリットがあります。人生が80歳までなのか100歳までなのかによって、65歳時点で必要な資金準備は倍以上違ってきますが、公的年金はどちらに対しても柔軟に対応してくれます。特に長生きリスクに対しては年金の強みが生かせます。
目下のところはあまりにも低インフレなので物価対応力を実感することはありませんが、物価上昇率より給付の増加率を低く抑える「マクロ経済スライド」の調整が終了したあと、高いインフレが続く時期には公的年金の増額改定による恩恵も受けることになるでしょう。
さて、公的年金の額を増やして、老後の基礎的な収入を増やすのも皆さんが考えるべき「老後に向けた資産運用」ということになります。
重要なことは「厚生年金に加入すること」であり、次に重要なのは「高い保険料を納めること」です。そしてできる限り「長期にわたって加入すること」により年金額の増額を得ることができます。
一見すると高い保険料ばかり取られるように思えますが、高い保険料の納付実績は、高い年金額獲得の条件なのです。
といっても、しっかり仕事をしてたくさん稼げば、保険料も自動的に上がるので目の前の稼ぎをしっかり獲得することが年金アップの近道でもあります。
※厚生年金保険料を計算する基準となる「標準報酬月額」は、給与に応じて決まり、上限は月65万、ボーナス150万円。
65歳より遅くもらうことで、最後の最後に年金額を増やせる
この公的年金は繰り下げ年金といい、遅くもらい始めると増額される仕組みです。66歳まで1年遅らせると、65歳で本来もらえた年金水準から8.4%アップした金額を一生涯もらえます。1年を無年金で過ごした代わりに得た増額分は12年ほどで元が取れ、それ以上長生きすればお得という概算です。
繰り下げた期間に比例して年金額は増額され、70歳で42%アップ、75歳で84%アップまで増えます(現行では70歳まで。2022年4月に75歳までの繰り下げ制度がスタート)。
どの段階で受け始めても「無年金であった期間の年金額相当」と「平均余命に照らした増額相当分」がおおむね等しくなるので、長生きするほど有利です。
医療技術の進展を考えれば、日本人の寿命は上振れする可能性が高く(例えばガンが2040年に克服されたとしたら?)、自分の「長生きの可能性に賭けてみる」ことには合理的な分があります。
とはいえ、不確実な未来に年金をお預けすることの心理的不安は大きく、実際には標準的な年齢でもらう人が多いのが現状です。
そこで、投資経験者に一つの考え方を提案します。株式市場のリスクと日々向き合っている個人投資家であれば、長生きのリスクをしっかり見極めて、繰り下げを検討することができるのではないでしょうか。