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FRB新議長指名イエレン氏の「最適コントロール」
堀古 英司
ウォール街から~米国株の魅力~
ニューヨークのヘッジファンド運用マネジャーである堀古英司氏による週刊レポート。単なる分析にとどまらず、出来るだけ「裏を読む」という観点で米国経済、市場についてお伝えするコーナーで…

FRB新議長指名イエレン氏の「最適コントロール」

2013/11/6
大方の予想通り、オバマ大統領は10月9日、米連邦準備理事会(FRB)の次期議長としてイエレンFRB副議長を指名しました。
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大方の予想通り、オバマ大統領は10月9日、米連邦準備理事会(FRB)の次期議長としてイエレンFRB副議長を指名しました。今後上院での承認手続きが順調に進めば来年2月、FRB初の女性議長が誕生する事になります。米株式市場はイエレン氏の指名を既に好意的にとらえていますが、私は、その好影響はさらに中長期にわたって表われてくると考えています。それは彼女の現状の景気認識及びその処方箋としての金融政策の考え方が結果的に、株式市場そして米国経済にとって非常に優しいものであるからです。

市場ではイエレン氏は金融緩和に積極的なハト派として知られています。しかし90年代にはインフレ抑制に重点を置いた発言や講演も目立つなど、決して常に金融緩和を推進する立場にいたわけではありません。しかし、アメリカ経済は2008年の金融危機をきっかけに大きな調整を余儀なくされ、同年12月以降は実質的にゼロ金利が続いている状況にあります。このような局面においては、ゼロ金利の世界においても有効な政策決定手段を用いて金融政策を進める事が必要です。そのような観点からイエレン氏が注目しているのが「最適コントロール」と呼ばれるルールです。

従来FRBに影響を与えてきた政策金利の決定ルールの一つとして、「テイラー・ルール」が挙げられます。テイラー・ルールとは1993年にアメリカの経済学者、ジョン・テイラー氏によって提唱された政策金利の決定ルールで、以下の通り、比較的単純な式によって求められます。

フェデラルファンド金利(FFレート)=インフレ率+均衡実質金利+0.5×(インフレ率-目標インフレ率)+(0.5又は1.0)×(実質GDPの対数-潜在GDPの対数)

イエレン氏はテイラー・ルールの有効性を認めながらも、そもそも現在のように、ゼロ金利が比較的長期間続くような状況を想定しておらず、従ってFRBの使命である雇用の最大化目標を達成するには不十分であるとしています。特にテイラー・ルールの中には「均衡実質金利」が入っていますが、これは通常、定数であり、経済情勢に合わせて上下するものではありません。2008年以降の金融危機のような場面でもこれを定数としておく事は、金融政策による経済の調整機能を弱めている可能性があります。

この弱点を補強するルールとして、イエレン氏がより重視してきたのが「最適コントロール」です。最適コントロールとは簡潔に言えば、下記によって求められる損失を最小限にするような政策金利の決定ルールです。

損失=(インフレ率-目標インフレ率)2 +(失業率-自然失業率)2 +(政策金利の変化)2

即ち、インフレ率と失業率の目標値からのブレ、及び政策金利の変化の合計を損失ととらえ、この損失を最小限にするような政策金利を求める、というルールです。イエレン氏の2012年6月の講演で使用されたスライドでは、2012年第2四半期から2025年第4四半期のインフレ率、失業率、金利の予想に基づき、政策目標であるインフレ率2%、失業率5.5%からのブレ、及び四半期毎の政策金利の変化を最小限にするような政策金利を求めています。これによると、2017年末にフェデラルファンド金利が3.5%程度になるという結果はテイラー・ルールと殆ど変わりませんが、テイラー・ルールが最初の利上げを2014年後半と示しているのに対し、最適コントロールでは2015年後半と、1年近く先延ばしになっています。

最適コントロールは前述の通り、現在のようなゼロ金利が比較的長期間続く局面において、より有効なルールと言えます。一方でテイラー・ルールに比べて複雑であり、一般の人にとってFRBがどのような判断基準で政策金利を決定しているのか、推し量る事は容易ではありません。また変数にはインフレ率、失業率、金利の予想値が用いられていますが、当然の事ながら、それらの予想値が正確である保証はありません。従ってイエレン氏は、最適コントロールは政策金利決定ルールとして有効であるものの、重点を置きすぎてはいけない、と指摘しています。ただ9月に公表されたFOMCメンバーによる政策金利見通しは最適コントロールにより近くなっています。最適コントロールの考え方が、既にFOMCにより影響を与えている証拠と言えます。

最適コントロールは最小限の政策金利の変化で、インフレ率、失業率のブレを出来るだけ少なくする事を目的としています。このため、現在のような景気回復局面にあっても、引き締めを急ぎすぎて失敗するという事態を避けるために、金融引き締めはインフレ率、失業率が目標から離れない事を十分確認してから、という事になります。従って早すぎる金融引き締めが実施される可能性は低く、逆に金融引き締めが実施される頃には、インフレ率も失業率も、十分に改善方向に向かっている事が確認できているという事になります。

即ち、金融引き締めが従来よりも遅れ気味に実施されるのが株式市場にとって優しいだけでなく、金融引き締めが実施される時は、アメリカの景気はFRBのお墨付きという事になります。金融引き締めはしばしば株式市場のネガティブ材料とされますが、将来イエレン氏の下で金融引き締めが実施される事になった時、それは逆に確実な景気回復という、株式市場にとってポジティブなサインと受け止めて良い、という事になるのです。

(2013年11月5日記)

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