FOMCの動向も、ドル/円押し上げの原因に
金利上昇のきっかけとなった、もう1つの要因である22日のFOMCでは、テーパリング(量的緩和の段階的縮小)の年内開始は市場の予想通りでしたが、パウエル議長は記者会見で「テーパリングは来年半ばに終える」との見通しを示しました。
マーケットでは、テーパリングは1年ほどかけるとの観測が多かったため、「縮小ペースが速い」と受け止められました。
さらに、FOMCの金利見通しでは、利上げ開始時期が従来の2023年から2022年に前倒しされたことから、FOMCの結果は金融引き締めに前向きな「タカ派的」と、とらえられました。
この結果を受けて、恒大集団の債務問題リスクが後退すると、一気に金利は上昇し、その上昇がドル/円を111円台に押し上げたようです。
FOMCメンバーの今回の金利見通しでは、利上げ回数は中央値で2022年1回、2023年3回、2024年3回となっています。
この結果を受けて、マーケットは利上げ開始時期が2022年に前倒しされたと捉えたのですが、記者会見でパウエル議長は「テーパリングと利上げの判断は基準が異なる」、「利上げのテストを通過するにはかなりの時間がかかる」と従来の考えを重ねて強調しました。
これらの発言から、2022年の「利上げなし」を予想したFOMCメンバー9人の中にパウエル議長が含まれるとみる向きは多いようです。
米金融機関のエコノミストの間でもFRB(米連邦準備制度理事会)が実際に利上げするのはかなり先、とみるエコノミストは多く、2022年中の利上げ開始を予想するのはごく少数派との意見もあります。
FOMCは議長を含むFRB理事7人(現在は1人空席)と地区連銀総裁12人の計19人で構成されています。その内、政策決定の投票権があるのは理事7人と、持ち回りで選ばれた地区連銀総裁5人で、理事の方が数で上回っています。
投票では理事は議長と行動を共にするのが通常であるため、議長がハト派である限り、FRBがタカ派に転じることはかなり難しいようです。
もし、パウエル議長のハト派姿勢が変わっていないのであれば、FOMC後の速すぎる金利上昇をみて、金利上昇を抑えるような発言が出てくることも予想されるため注意が必要です。
27日、ボストンとダラスの地区連銀総裁が、突然任期途中の退任を発表しました。金融取引などの倫理上の問題が背景にあるようですが、彼ら二人は、今回のFOMCの金利見通しで2022年の利上げに投票していました。
もし、FOMC前の退任であれば、2022年の利上げはなしとの票が多くなり、前倒し利上げにはならなかったため、相場の反応は違った反応になっていた可能性があります。今後、後任人事も含め、相場や金利見通しに影響を与える可能性もあるため、注目する必要があります。
恒大集団の経営危機について、パウエル議長は「中国特有のものだ」と指摘し、米市場への影響は限定的との見方を示しました。
恒大集団の債務問題が、限られた範囲での影響で終わればよいのですが、中国の不動産業界や取引先へ連鎖すれば、中国経済に影響し、世界経済への影響も避けられない可能性があります。