先週ロイターで、日本の金融機関が保有している米GSE関連債券の保有残高合計が4.7兆円と報じられ、日本の株式相場が大きく下落する場面がありました。このような情報は投資家にとって決して嬉しいニュースではありません。しかし私もファンドマネジャーをやっていて感じるのは、投資というのは大きな利益を生む投資も、失敗する投資もあって、全体では中長期的に利益を生んでいくというのが普通の姿です。また頭が良い人が運用していれば失敗しないというような、簡単なものでもありません。失敗した投資だけを取り上げて、それを責めるのはフェアではないと思います。重要なのは、投資家にとって嬉しくない情報でも、このようにきっちり誠実に開示する姿勢です。その意味で、嬉しくない情報とはいえ、保有残高がきっちり開示されているのであれば、その姿勢は評価すべきだと思います。

私が今一番気になっているのは、日本政府が外貨準備の運用の中で、この米GSE関連債券を保有しているのかしていないのか、また保有しているのならいくらかという事です。ご存知の通り、日本政府は外貨準備の運用先明細を明らかにしていません。しかし金融市場では日本政府が米GSE関連債券を保有しているというのはほぼ周知の事実になっています。また政府系住宅金融機関の一社、フレディーマックの最新の資料によれば、地域別では債券の36%はアジアの投資家が保有しており、投資家のタイプ別では42%が政府・中央銀行となっています。このような客観的事実をつぶしていくと、日本政府が保有している可能性は高い、という結論に到達してしまいます。

もちろん、私は日本政府が米GSE関連債券を保有しているかどうかの確認はできませんし、皆さんも同じ状態だと思います。しかし、もし保有していた場合、皆さんの大切な資産である外貨準備が毀損するかもしれないという、重大な事態です。しかも外貨準備の総額は100兆円を超える巨大な金額です。外為特別会計からの繰り入れがなくなれば、すでに火の車の財政が更に悪化する事も考えられます。血税を納めている国民として、保有しているなら保有している、保有していないなら保有していない、くらいは知る権利はあるのではないでしょうか。

これだけ情報の開示が進んでいる世の中で、100兆円にも及ぶ皆さんの大切な資産、外貨準備が秘密裏に運用されているのは不思議です。仮に、すでに米GSE関連債券を保有してしまっているのなら仕方ありません。投資というのは頭が良い人が運用したら失敗しないというような、簡単なものではないからです。そしてこれまでの開示しない、という慣習・システムに問題があったと考えるしかないでしょう。しかし今後については、少なくとも保有している、していないさえ分かれば国民の中で議論が進み、将来同じような問題が起こるのを防げるのではないでしょうか。後になって「実は保有していた」と判明するほど最悪の事態はないと思います。