今月初め、バーナンキFRB議長は議会証言で、「上半期の成長率は高くならないようだ:僅かながらマイナスとなる可能性もある」と発言しました。経済活動は人間の心理が大きな影響を与えているため、リセッションという言葉を公的な場で口にする事はタブーとされており、特にこのような議会証言で使われる事はありません。しかしこの議会証言後の質疑応答で、同議長はリセッションの可能性があるとあっさり認めてしまいました。以後、マスコミを中心にアメリカ経済リセッション入りの大合唱が起こっています。

株式というのは満期のない「永久証券」です。一方、アメリカ経済というのは今も昔も実質成長率2.8%~3.0%の間を行き来し、その中で5%くらいの期間はリセッション入りしています。そしてリセッションに入ってもいずれはプラス成長に戻るものです。私はかねてから、リセッションの定義であるたった6ヵ月の「2四半期連続マイナス経済成長」によって永久証券の価値が大きく上下するのは不思議な事だと思っています。確かに、リセッションを理由に株価が下落するのはいくつかの理由が考えられます。

(1)永久証券と言っても、直近のキャッシュフローが与える株価への影響がより大きい。

(2)リセッション時には通常時よりも多くの企業が破綻に追いやられるため、「永久証券」の前提が崩れる。

(3)人々の心理が悪化し、リスクの高い資産から資金を逃避しようとする動きが出る。

(1)の理由についてはその通りなので、敢えてコメントはありません。(2)もその通りなのですが、実際に破綻に追いやられるのはごく一部の企業であって、上場株式全体で考えると、その他の大部分が対象から外れます。(3)についてはそもそも永久証券である株式と、投資家の投資期間がマッチしていない、又はマッチしていない事を予想した動きと考えられます。即ち、直近のキャッシュフロー減少によってある程度株価が下落するのは合理的としても、到底破綻の可能性のない企業の株式については、中長期的投資家にとっては株式投資のチャンスに他ならないと言えます。

また(1)の理由にしても、直近のキャッシュフローの減少は、通常市場はかなり前から織り込んでいるはずで、リセッションに入ってから株価が下落するというのは違和感があります。例えば、アメリカの過去のリセッションの時期と代表的株価指数であるS&P500指数の関係は以下の通りです。

リセッションの時期 リセッション前3ヵ月のS&P500のリターン リセッション中のS&P500のリターン
1974年3Q-75年1Q -8.5% 3.4%
1980年2Q-3Q -5.4% 21.7%
1981年4Q-82年1Q -11.5% -3.2%
1990年4Q-91年1Q -14.5% 21.5%

上記仮定の通り、リセッションの前の四半期に株価はすでにリセッションを織り込む形で下落しています。実際にリセッションに入ってからの株価はむしろ上昇している事が多く、80年と90年は半年で20%以上も上昇しています。

今年第1四半期、S&P500指数はすでに10%下落しました。今後エコノミストが定義する「リセッション」は実現するかどうか分かりませんが、中長期的投資家にとってはあまり気にする必要がないか、株価が安くなったのはむしろラッキーと言えるのではないでしょうか。