4.日系半導体製造装置メーカー大手5社についてのコメントと目標株価
1)東京エレクトロン
東京エレクトロンに関する前回のレポート(楽天証券投資WEEKLY2021年8月20日号)で私は、東京エレクトロンの2022年3月期1Q(2021年4-6月期)が旧収益認識基準によれば減収減益となったこと、会社側は製品出荷額は好調とはコメントしているが、具体的な数字がないため、勢いが不明であることなどの理由から、業績予想は2022年3月期は会社予想と同じ、2023年3月期は前回の楽天証券予想と同じとしました。そして、今後6~12カ月間の目標株価を、それまでの6万6,000円から5万5,000円に引き下げました。
しかし、直接同社に取材することによって、今1Qの旧基準による減収減益は前4Qの工場設置が多かったことによる反動によるものが大きいこと、今1Qの製品出荷額はおおむね前年比30%以上の伸び、前4Q比10%以上の伸びであり、強い勢いと言えること、半導体不足、部材不足というリスクはありながらも、事業環境は明るく、今期会社予想は十分達成可能であること、来期は前回楽天証券予想を上回る業績が期待できそうであることなどが分かりました。
そのため、業績については、今期2022年3月期は前回予想と同じく会社予想と同じとします。来期2023年3月期楽天証券予想は、前回の売上高2兆1,500億円、営業利益6,000億円を、売上高2兆3,000億円(前年比24.3%増)、営業利益6,400億円(同26.0%増)に上方修正します。
リスクは、前述したような海外、特にアメリカにおける人材確保の問題と、資材費、人件費の上昇の可能性です。そのため、営業利益率の予想を2022年3月期27.5%、2023年3月期27.8%とほぼ横ばいとしました。
今後6~12カ月間の目標株価を前回の5万5,000円から6万5,000円に引き上げます。短期間での修正になりますが、前々回の目標株価近くに戻します。楽天証券の2023年3月期予想EPS (1株当たり利益)2,995.6円に成長性とリスクの両方を考慮し、想定PER(株価収益率)20~25倍を当てはめました。
引き続き中長期で投資妙味を感じます。
表3 東京エレクトロンの業績
2)レーザーテック
レーザーテックの楽天証券業績予想は前回から変更しません。2022年6月期は会社予想のように、「ACTIS A150」(EUV光を使ったEUV用フォトマスク欠陥検査装置。レーザーテックが市場シェア100%を持つ)の初期生産のために売上総利益率が悪化し、増収率、営業増益率がともに鈍化する見込みです。しかし2023年6月期、2024年6月期は、レーザーテックの今期会社側受注予想1,600億円(前年比41.7%増)、2022年6月末受注残高予想2,128億円(同56.7%増)から見て、表4のように40%台の増収、50%台の営業増益が実現可能と思われます。
3ナノ対応のEUV露光装置のフォトマスクがペリクル(防塵カバー)ありか、ペリクルなしかで、推定価格50~80億円の「ACTIS A150」の需要がおおむね決まる可能性があると思われます(ペリクルありならEUV光を使う「A150」でなければ検査できない)。一方で、5ナノの設備投資も多いため、一世代前の「MATRICS X8ULTRA」(EUV用フォトマスク欠陥検査装置だが、ペリクルなしの場合に、ディープUV光を使って検査する。ペリクル有りではディープUV光がペリクルを透過しないので使えない。1台約15億円。KLAが競合相手だが、レーザーテックのほうが市場シェアが高い)の需要も多いと予想されます。
次の問題は、まだ十分に見通せない2ナノ(2024年に量産開始か)の時代のフォトマスク欠陥検査装置がどうなるのかです。3ナノからこの需要が出てくると思われますが、EUV用フォトマスクの「位相欠陥」(EUV露光装置の光を攪乱する極めて細かい欠陥。EUV光でなければ検査できない)の検査が必須となれば、ペリクルの有無にかかわらずEUV用フォトマスク欠陥検査装置として「A150」が必要になります(競合相手が現れないという前提で。2ナノには「A150」の改良版が使われる可能性がある)。この場合、仮に2ナノの設備投資額あるいはEUV露光装置の必要台数が3ナノと同等であれば、「A150」の必要台数は3ナノよりも2ナノのほうが多くなる可能性があります。
つまり、このまま半導体ブームが続けば、2024年6月期(2ナノの量産投資と3ナノ増強投資)だけでなく、2025年6月期(2ナノの増強投資と1.5ナノの初期投資)もレーザーテックの増収増益が続く可能性が高いと予想できるのです。
まだ3ナノ、2ナノの時代を十分見通せないことがリスクではありますが、これまで述べたことを考慮しつつ、今後6~12カ月の目標株価を前回の2万5,000円から3万7,000円に引き上げます。従来は2023年6月期予想EPSをベースに目標株価を算出していましたが、今回はより先を見て、楽天証券の2024年6月期予想EPS 619.9円をベースとして、これに2024年6月期予想営業増益率56.5%、想定PEG1.0倍強として、想定PERを60倍前後として当てはめました。
短期間で株価が急騰したため反動リスクもありますが、中長期では依然として投資妙味がある銘柄と思われます。
表4 レーザーテックの業績
3)アドバンテスト
アドバンテストのSoCテスタは、7ナノ、5ナノ、これから始まる3ナノ対応だけでなく、10ナノ台から以前の微細化世代においても需要が増加しています。微細化の世代を問わず、ロジック半導体の機能が多様化、複雑化し、内部構造が複雑になっているため、半導体のテストコストが増加し、これがSoCテスタ需要の増加に結び付いているのです。この動きは当面続くと思われます。
ちなみに、2年前までは半導体のテストコストは半導体売上高の約1%と言われてきました。今では1.3~1.4%になっています。半導体不足と半導体の技術革新が続く中では、テストコストは傾向的に増加すると思われます。
アドバンテストの楽天証券業績予想と目標株価1万4,000円は変更しません。引き続き中長期で投資妙味を感じます。
表5 アドバンテストの業績
4)SCREENホールディングス
生産性が改善しており、全社営業利益率は2020年3月期3.9%、2021年3月期7.6%と上昇しました。2022年3月期会社予想では11.4%になる見込みです。このうちSPE(半導体製造装置事業)の営業利益率は、2020年3月期7.0%、2021年3月期11.0%、2022年3月期会社予想15.9%と改善する見込みです。更に、会社側の中期経営計画では、2024年3月期にSPE営業利益率を18~20%に引き上げる計画です。
これが実現するならば、今の株価は割安になると思われます。実際にSCREENホールディングスの予想PERを見ると、今期会社予想ベースで17.1倍、来期楽天証券予想ベースで13.5倍と、同業他社に比べ割安となっています。ここに中長期での投資妙味を感じます。
楽天証券業績予想と目標株価1万4,000円は変更しません。
表6 SCREENホールディングスの業績
5)ディスコ
ロジック半導体、メモリとも生産数量が増加しているため、ダイサ(回路を描き込んだシリコンウェハを四角に切り出す)、グラインダ(シリコンウェハの底面を薄く削る)と消耗品(ブレード)の需要も増加しています。半導体デバイスのブームが続く限り、四半期ごとの変動はあると思われますが、ディスコの業績は伸び続けると思われます。
楽天証券の業績予想と目標株価3万9,000円は変更しません。一定の投資妙味を感じます。
表7 ディスコの業績
表8 半導体製造装置の主要製品市場シェア(2020年)
本レポートに掲載した銘柄:東京エレクトロン(8035)、レーザーテック(6920)、アドバンテスト(6857)、SCREENホールディングス(7735)、ディスコ(6146)