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 世界が脱炭素に向けて大きくかじを切り、2050年のカーボンニュートラルを目指してCO₂排出削減の取り組みを加速させるなか、中央銀行が脱炭素を後押しする新たな政策に踏み出し始めました。ECB(欧州中央銀行)が脱炭素の取り組みを強化する戦略をまとめ、日本銀行は脱炭素を後押しする投融資を優遇する『気候変動対応オペ』を公表するなど、環境対応を金融政策として対応すべき領域と位置づけました。

【ポイント1】日銀が『気候変動対応オペ』を公表

 日銀は6月の金融政策決定会合で、気候変動対策として金融機関の脱炭素関連の投融資を促す新制度の創設を決め、7月の会合でその骨子案を公表しました。それによると、環境対策を進める企業へ投融資する金融機関に貸付金利0%で資金を供給します。貸付期間は原則1年ですが、2030年度まで何度でも借り換えられるため、実質的に長期貸付となります。また、利用促進に向け、金融機関の日銀当座預金にかかる金利が0%となる部分(マクロ加算残高)にオペの利用残高の2倍を追加し、マイナス金利の負担を軽減できる優遇措置も設けています。開始時期は年内とし、2030年度まで実施するとしています。

【ポイント2】市場中立性に配慮する日銀

『気候変動対応オペ』の骨子案によれば、日銀は民間金融機関が自らの判断に基づき取り組む気候変動対応の投融資をバックファイナンスする資金供給にとどめました。また、市場で注目されていたプラス付利金利の提供は見送られており、新たなオペは総じて慎重なスタートと判断されます。

 日銀は、資金の流れを左右する金融政策での脱炭素対応において市場中立性への配慮を重視したとみられます。また、開始当初からインセンティブを付け過ぎると、気候変動対応とは無関係な事業にまで資金が流れる弊害などへの懸念が日銀内に根強かったと思われます。

【今後の展開】『気候変動対応オペ』を利用した成長促進に期待

 日銀が『気候変動対応オペ』に踏み切った背景には、世界的な脱炭素の流れや海外中銀の動きなどがあります。今回の措置は、市場中立性に配慮しながら、慎重なスタートとなりますが、今後必要に応じてインセンティブを強化することなどで、規模拡大を促すことも考えられます。低成長が長期化する日本において、数少ない成長分野で民間企業の脱炭素の取り組みを促す仕組みが拡張され、成長が加速することが期待されます。また、今後の環境対応を巡る議論により、金融政策の領域がさらに広がる可能性もあります。