雇用統計ウォーズ エピソード6「労働者の帰還」

 遠い昔、はるかかなたの銀河系で、COVID-19と呼ばれる邪悪なウイルスの感染拡大によって、世界は照明のスイッチをオフにして、経済は暗闇に閉ざされた。

 しかし防衛軍はついにワクチン開発に成功し、ウイルス感染を抑制することに成功した。そして今、世界は一斉にスイッチをオンにして、経済が再び明るくなろうとしている。

 6月の米雇用統計では、NFPの増加数は、今年最大となりました。7月の雇用統計では、雇用者がさらに増えるとの予想がでています。米国の労働市場はコロナ禍からしっかりと立ち直りつつあります。ところが、めでたしめでたしとはいかないようです。

 米国ではコロナ前の2020年1月に比べて、就業者数が約900万人減少しています。しかし今年4月のデータによると、ほぼ同数の求人募集がありました。仕事があるのに雇用が伸びないのは、なぜか。

 全米の企業がスイッチオンで採用を拡大しようとするなかで、十分な労働力を確保できなくなっているからです。米国の労働人口の減少が原因ではなく、短期的な雇用のミスマッチが理由といわれています。

 米国の雇用市場は今、極端な売り手市場になっていて、できるだけ自分を高く売ろうとしたり、より良い仕事を求めて転職を繰り返したりしている人が多くいます。米国で4月に仕事を辞めた労働者の割合は、過去20年で最大の水準。失業給付金がたっぷりもらえるから、すぐに働かずにゆっくりと自分に合う仕事を探すこともできます。

 しかし、仕事から離れる期間が長くなるほど、いったん流れが変わった時にはせきを切ったように人々が雇用市場になだれ込み、雇用統計の雇用者が100万人どころか、月200万人に急増する上向きリスクも高まっているのです。

 パウエルFRB議長は、7月FOMC(米連邦公開市場委員会)後の記者会見で「雇用市場(の回復)は、まだまだ十分とはいえない」との見解を示しました。だから緩和縮小も「急ぐ必要がない」ということです。

 しかし、もし雇用者が100万人を超えるならば、この理由は通用しなくなります。マーケットの利上げ期待は急に盛り上がり、緩和縮小は9月では遅い、8月ジャクソンホールで発表だ、ということになれば、米長期金利は急上昇する可能性があります。株式市場急落、ドル急騰リスクにも備える必要があるでしょう。