家庭や子供の負担軽減と学習塾の非営利化、上場禁止に何の関係があるのか?

 上記の背景を受けて、党・政府が、家計の負担軽減、少子高齢化対策という観点から《意見》を出したことに一定の正当性があるとして、「それと学習塾の上場禁止と何の関係があるのか?」「非営利化する必要があるのか?」といった疑問は依然として残ります。

《意見》は次のように規定しています。

「各地方政府は、新たに設立される義務教育段階の学生向けの学習塾を批准せず、既存の学習塾に関しては、一律に非営利機構と登記する。オンライン学習塾は許可制とする」

「学習塾は一律に上場による融資をしてはならず、資本化運営を厳しく禁止する」

「上場企業は株式市場を通じて学習塾に投融資を行ってはならない。株式発行や現金支払いによって学習塾の資産を買ってはならない。外資は買収や委託経営、フランチャイズ、VIE(変動持ち分事業体)といった方法を通じて学習塾の株式を持ったり、押さえたりしてはならない」

 株式市場に参画する機関投資家や中国の教育ビジネスに関心のある海外実業家からすれば、ショッキングな内容になっていると言わざるを得ません。

 関連銘柄の動きを見ると、7月26日(月)、香港に上場する新東方教育科技集団(9901、香港)は47%安と、終値ベースで上場後最大の下げを記録。同日、香港上場の中国本土銘柄から成るハンセン中国企業株(H株)指数は4.9%下がっています。経済の持続的成長にもつながる教育という成長株、注目株を、党・政府はなぜ規制しようとするのか。

 私の分析によれば、ここにも習近平政権の特徴が見て取れます。要するに、市場経済や改革開放をうたった鄧小平(ダン・シャオピン)の時代にはじまり、その後の江沢民(ジャン・ザーミン)、胡錦涛(フー・ジンタオ)の時代にかけて、限定的かつ「中国特色」とはいえ、一種の自由放任主義がはびこり、資本の力を武器に急成長を続ける企業、特に上場企業が施すビジネスやサービスに国内の消費者がついていけず、相当程度の混乱や不安を招いている、故にそこに一定程度のメスを入れたということでしょう。私の見方では、党指導部に「規制」という自覚は毛頭なく、ルールの構築や法制度の整備を通じて市場の秩序と安定的発展を実現するという認識を保持しています。

 中国の指導者にとって、最も重要なことは、14億の人口を食わせていくことにほかなりません。当局と企業は人民を間に挟んでつながっているのです。党・政府は、14億という巨大な船が沈んでしまわないように、アクセルとブレーキを慎重に踏みながら、常時方向調整、軌道修正をしながら、前に進んでいくしかない。そのためには、時には一歩下がってみて、機が熟した際に2歩進むことも必要ということなのでしょう。

 習総書記率いる共産党指導部は、中国経済を持続的に成長させるために、今回の「規制策」を出し、国民の関心度、関与度が極めて高い教育サービス事業を長い目で育てていこうと考えているのでしょう。それが功を奏すのか否かは、今後の展開を見ていかないと分かりません。

 最後に一言付け加えれば、中国では「上に政策あれば、下に対策あり」が常識です。

 党・政府による政策をただ黙って受け入れるほど中国人はお人よしではありません。彼らは非常にしたたかで、適応力や行動力に優れています。

 今回の《意見》が自らの事業に一定の打撃を与えるのは避けられないものの、教育サービス企業は、小中学生向け学習事業を手放す;高校生向けのサービスを充実させる;オンラインを生かす;あるいは「教育」の範ちゅうに入る他のサービスや事業を開発するなどして、この難局を乗り切ろうとするのではないでしょうか。