ドル/円トレンドはさらに読みにくくなる
ただ、今回のタカ派寄りのメッセージはメッセージとして、今後マーケットを見ていく上で留意していく必要があります。また、いくつかの気になる点もあります。
【1】インフレについては「一時的」との従来の姿勢を維持しましたが、予想以上に長引くかもしれないことを認めたこと。今後、インフレ指標はますます注目度が高まっていくことが予想されます。
【2】「FRBの変節」は、増え続けるFRB理事たちのタカ派姿勢をパウエル議長がコントロールできなくなってきたのではないかとの見方があります。
2023年の金利見通しで、ゼロ金利の見通しのメンバーは前回の11人から5人に減りました。5人ということは、FOMCの常任メンバー7人よりも少ないということから、パウエル議長と同調するハト派のコアメンバーが減ったということを意味します。
もし、そうだとすると、今後の経済指標によってはFRBの姿勢はよりタカ派になりやすいことも予想されるため、経済指標についてはこのような観点からもみていく必要があります。
【3】一方で、パウエル議長は来年の任期終了前に出口への道筋をつけたいがために、タカ派寄りの見方が強まっていることを抑制せず、このタイミングでFRBの変節を醸し出したのではないかという見方もあります。
もし、そうならば、タカ派色はこの先徐々に強まってくる可能性があります。逆に、もし、パウエル議長が続投という見方が強まってくれば、出口へは急がないのではないかという見方も浮上してきます。秋口ごろからささやかれてくるFRB議長の後任人事の動向にも留意していく必要があります。
【4】また、別の観点からの見方となりますが、今後、変異株によって感染拡大すれば、株式市場では本来なら景気が減速するマイナス要因ですが、景気下支えのために利上げ観測が後退し、金融緩和を長期化する必要があるとの見方が強まる可能性があります。
感染拡大動向についてはこのような見方で注目する必要が出てきました。
「FRBの変節」によって、7月のFOMCや8月のジャクソンホールの会合の注目度は一層高まってきます。また、「FRBの変節」は、今後のテーパリングや利上げの時期的な側面だけでなく、上記のようにさまざまな要因として顔を出してくることが予想されるため、注意してみていく必要がありそうです。
ドル/円を動かす要因にも、変化が出てくるかもしれません。ドル/円のFOMC後の動きは、米10年債利回りの上下に連動して動いたことも要因ですが、クロス円の急落によっても影響を受けました。
FRBの利上げ前倒し方針によるドル高によって、ユーロやポンド、豪ドルが急落し、これらのクロス円も急落した結果、ドル/円は一時109円台に下落しました。
しかし、今週に入って株の反発とともにクロス円も反発し、ドル/円も110円台後半に戻ってきています。ドル/円の主体性はなく、しばらくは株やクロス円の動きに左右される動きとなりそうです。
ドル/円は、これまでクロス円の上昇(円安)によって底堅い動きとなっていました。しかし、「FRBの変節」した顔は、FRB高官の発言や経済指標によって時々マーケットに出てくることが予想されるため、クロス円もこれまでのように一本調子の上昇トレンドには戻らないかもしれません。