先週のFOMCはタカ派寄り、市場反応は大

先週のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、予想以上のタカ派的な内容となりました。

 その内容は、

・ゼロ金利政策を維持し、量的緩和も現行ペースの毎月1,200億ドル購入の継続を決定

・金利見通しでは、ゼロ金利政策を2023年末まで継続するとのこれまでの見通しから、ゼロ金利政策の解除時期を前倒しし、2023年中とする見通しを示した
 →前回3月では、FOMCメンバー18人のうち3人が2023年の利上げ見通しだったが、今回は18人のうち13人が2023年末までの利上げ再開を見込み、0.25%幅で2回の利上げ見通し

・2022年の利上げも、前回の4人から7人に増加

・パウエル議長は、インフレの加速は「一時的」との認識を改めて示した一方、「供給制約の効果が想定していたよりも大きく、予想を上回って持続する可能性がある」と警戒感も強調

・テーパリング(量的緩和縮小)については、今後の経済データをみた上で具体的な議論に入る考えを示し、テーパリング開始時期については「もっとデータを見たら話すことができる」と述べるにとどめた

 となりますが、利上げ時期前倒しという予想外のタカ派内容を受けて市場は大きく反応しました。

 FOMC発表直後、米10年債利回りは1.6%手前まで上昇しました。しかしその後は、利上げによる景気悪化懸念や債券の売りポジションの巻き戻し、水準感からの資金流入によって、1.4%台前半に急低下しました。

 この米10年債利回りに呼応するように、ドル/円は1ドル=110円台後半に上昇した後、110円台前半に低下しました。

 そして株式市場や商品市場も、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ前倒し方針への転換から、これまでのポジションを巻き戻すように総崩れとなり、株は売られ、商品は下落しました。

ブラード総裁発言が追い打ちに

 追い打ちをかけたのはFOMC後の18日、セントルイス連銀のブラード総裁の「インフレが加速すれば2022年後半にも最初の利上げをするだろう」との発言でした。

 FRBの金利見通しよりもさらに利上げの前倒しが必要との発言から米株は大きく崩れ、今週月曜日の日本株も一時1, 000円を超える下げとなりました。ドル/円も一時110円を割れる展開となりました。

 市場参加者はFRBがタカ派に変節したと捉え、マーケットは大きく反応しましたが、今回の内容を冷静にみてみると、

【1】FOMC前に注目されていたテーパリングについては、今後のデータを確認後議論すると述べ、開始時期については今後の話と説明したことからマーケットの想定内の内容。

【2】2023年の利上げ見通しについては、これまでマーケットが想定していた利上げ観測時期と大きなズレはないこと。また、利上げはまだ2年近く先の話であること。

 などを考えると、FOMC後のマーケットの反応は、FRBのタカ派寄りの変節に驚いただけのようです。出口への道のりはまだ時間がかかることを考慮すると、早晩、マーケットは「FRBの変節」を消化していくのではないでしょうか。

 22日のパウエル議長の議会証言で「インフレは一時的」と認識する従来の姿勢は変わらなかったことに加え、「FRBは予防的に利上げすることはない」と発言したことから、早期利上げに対する過度な警戒感が後退し、株価は上昇しました。

ドル/円トレンドはさらに読みにくくなる

 ただ、今回のタカ派寄りのメッセージはメッセージとして、今後マーケットを見ていく上で留意していく必要があります。また、いくつかの気になる点もあります。

【1】インフレについては「一時的」との従来の姿勢を維持しましたが、予想以上に長引くかもしれないことを認めたこと。今後、インフレ指標はますます注目度が高まっていくことが予想されます。

【2】「FRBの変節」は、増え続けるFRB理事たちのタカ派姿勢をパウエル議長がコントロールできなくなってきたのではないかとの見方があります。

 2023年の金利見通しで、ゼロ金利の見通しのメンバーは前回の11人から5人に減りました。5人ということは、FOMCの常任メンバー7人よりも少ないということから、パウエル議長と同調するハト派のコアメンバーが減ったということを意味します。

 もし、そうだとすると、今後の経済指標によってはFRBの姿勢はよりタカ派になりやすいことも予想されるため、経済指標についてはこのような観点からもみていく必要があります。

【3】一方で、パウエル議長は来年の任期終了前に出口への道筋をつけたいがために、タカ派寄りの見方が強まっていることを抑制せず、このタイミングでFRBの変節を醸し出したのではないかという見方もあります。

 もし、そうならば、タカ派色はこの先徐々に強まってくる可能性があります。逆に、もし、パウエル議長が続投という見方が強まってくれば、出口へは急がないのではないかという見方も浮上してきます。秋口ごろからささやかれてくるFRB議長の後任人事の動向にも留意していく必要があります。

【4】また、別の観点からの見方となりますが、今後、変異株によって感染拡大すれば、株式市場では本来なら景気が減速するマイナス要因ですが、景気下支えのために利上げ観測が後退し、金融緩和を長期化する必要があるとの見方が強まる可能性があります。

 感染拡大動向についてはこのような見方で注目する必要が出てきました。

「FRBの変節」によって、7月のFOMCや8月のジャクソンホールの会合の注目度は一層高まってきます。また、「FRBの変節」は、今後のテーパリングや利上げの時期的な側面だけでなく、上記のようにさまざまな要因として顔を出してくることが予想されるため、注意してみていく必要がありそうです。

 ドル/円を動かす要因にも、変化が出てくるかもしれません。ドル/円のFOMC後の動きは、米10年債利回りの上下に連動して動いたことも要因ですが、クロス円の急落によっても影響を受けました。

 FRBの利上げ前倒し方針によるドル高によって、ユーロやポンド、豪ドルが急落し、これらのクロス円も急落した結果、ドル/円は一時109円台に下落しました。

 しかし、今週に入って株の反発とともにクロス円も反発し、ドル/円も110円台後半に戻ってきています。ドル/円の主体性はなく、しばらくは株やクロス円の動きに左右される動きとなりそうです。

 ドル/円は、これまでクロス円の上昇(円安)によって底堅い動きとなっていました。しかし、「FRBの変節」した顔は、FRB高官の発言や経済指標によって時々マーケットに出てくることが予想されるため、クロス円もこれまでのように一本調子の上昇トレンドには戻らないかもしれません。