向こう数カ月は日本の金融政策が再び脚光を浴びるとみられる。安倍首相による次期日銀総裁の任命が迫っているが、それ以上にイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)の操作対象変更の可能性が高まっていることが理由である。具体的に言うと、日銀は操作対象とする年限を変更すると考えられる。金利の操作対象を10年から5年国債金利あるいは7年国債金利にシフトすれば、景気浮揚に向けた日銀の努力に対する信頼感はかなり高まるだろう。

 こうした操作対象のシフトは2%の物価目標を断念しなくても実現可能で、以下のような3つのメリットが考えられる。 

 第一に、債券市場での民間銀行の活動を促進する、すなわち民間投資家の債券投資が劇的に増加するとみられる。当然のことながら、10年ゾーンからのシフトによって10年国債利回りは上昇する可能性が高いが、現状で償還期間の長い優良資産を求めている資産運用会社には歓迎されるだろう。 

 第二に、新たに設定したターゲット年限を超えたところからイールドカーブがスティープ化すると、利ざやおよびキャリートレードの機会が拡大する。銀行と保険会社では利ざやが拡大に向かう一方、短中期の円調達コストはターゲット年限まで上限がゼロ近辺で変わらない。「ホッケースティック」曲線にも似たイールドカーブのスティープ化は銀行の収益を押し上げるとみられる。

 第三に、日本株への影響は非常にポジティブで景気浮揚に弾みがつくと考えられる。日本の銀行セクターは市場全体と比べて大きく出遅れており、TOPIXが2015年にアベノミクス効果で付けた高値を更新したのに対し、銀行株指数(東証銀行業株価指数)はこれを約40%下回っているからである。銀行株がこのように大きくアンダーパフォームしているのは、10年国債利回りをゼロ%に誘導する方針とあいまった日銀のマイナス金利政策によるものである。本格的な方向転換によって5年国債あるいは7年国債の利回りをゼロ近辺に抑えれば、銀行の将来の収益見通しは好転し、日本の金融セクター、中でも銀行の価値が見直されるだろう。

 加えて、短い年限への方向転換によって世界的なキャリートレードおよび為替レートの動向に大きな影響が及ぶことはないと思われる。短中期の円調達コストをゼロ%程度に固定することで、日米金利差の拡大によりドル高が進むと予想される。

 現時点では、日銀の長短金利操作の対象変更をうかがわせる最初の兆しとして、中曽副総裁の「長短金利操作は柔軟で持続性の高い枠組み」という趣旨の発言があげられる。銀行の収益性改善をもたらし、ひいては景気浮揚を推進させる日銀の操作対象変更をチーム安倍は歓迎するだろう。 

 今こそ日本の金融セクター、特に銀行への資産配分を引き上げるべきと考える。日銀の方針転換に対する当社の見方が正しければ、日銀の次なる一手は景気浮揚に向けた方策となり、特に銀行の収益性見通しにとってターニングポイントとなるであろう。

2017年10月23日 記

 

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