低成長国の株式は儲からないのか?

 株式投資の話に戻ろう。中国などの高成長新興国と比較する文脈で出ることが多いが、「日本は低成長なので、日本で株式投資しても儲かるはずがない」と言われることがある。

 しかし、理屈を考えると、低成長でも高成長でも将来の成長が、現在予想されている成長率よりも高いか否かが重要であり、成長率の水準そのものは案外重要ではない。

 仮に、高成長なA国と低成長なB国を考えるとして、株式のリターンは、
 株式の期待リターン=益利回り+長期成長率
 と考えることができる。

 先ず、A国の成長率(長期一律を仮定)を6%、PERが25倍として益利回りが4%とすると、A国での株式投資の期待リターンは10%となる。

 一方、B国で成長率が0%、PERは12.5倍として益利回りが8%とすると、B国の株式投資の期待リターンは8%となる。

 しかし、仮に高成長のA国の金利が4%、低成長(たぶん低インフレ)B国の金利が2%とすると、両国の株式のリスク・プレミアムは共に6%となり、投資家にとってのリスクに対する評価がA国・B国で同じくらいと仮定すると、投資としてはどちらが有利とも言えない。

 10%と8%というリターンの差はあるが、これらは各々の現地通貨建てのリターンに過ぎないので、両国の実質金利が一緒で(たとえば2%で)、インフレ率だけが違い、為替レートがインフレ率を反映すると考えると、どちらに投資しても同じだ。

 たとえば、上記の状況で、B国の期待長期成長率が「予想外に」2%上昇したと考えると、同様の期待リターンとなる株価は益利回りが2%低下した株価なので、PERで約16.7倍の株価が正当化される。この場合、株価が33.6%上昇して、その上で、A国と将来の株式投資の期待リターンは同じということになる。

 低成長国の将来の「低成長」が投資家の予想に十分に織り込まれているなら、それはそれで形成されている株価が妥当ならリスクに見合った株式のリターンは期待できる。加えて、「意外な成長」があったときには、かなり大きなボーナスが見込める。もちろん「高成長国の方が不利だ」と言えるわけではないのだが、予想される成長率そのもののレベルの差よりも、将来の成長率が、投資家の予想する成長率と較べてどうなのか、ということの方が重要だ。

 日本経済悲観論は、実は、日本株の買い材料なのかも知れない。

 やはり、「長期投資は儲からない」というタイトルで本を書くのは止めておこう。

【コメント】

「長期投資は儲からない」とは、凄まじいタイトルの出版企画だ。どこの出版社のものだったのかは思い出せない。

 本文の主旨は今でも変わらない。2009年当時に株式に投資した人は、長期保有していればだが、結果的に儲かった人が多いだろう。

 これから出版企画を作るなら仮タイトルは「低成長でも株は儲かる!」だろうか。これなら、少しはやる気が出る。(2021年6月14日 山崎元)