量的金融緩和縮小の4項目とは

 FRB(米連邦準備制度理事会)が量的緩和縮小を開始するにあたって重視する4項目は、

  1. NFP
  2. 失業率
  3. 労働参加率
  4. 全人口に占める就業者比率

 と、言われています。ワクチン接種の進展と行動規制緩和によって景気が回復し、就業機会は増えてきていますが、新型コロナのパンデミックで失われた雇用は未だ約770万人喪失しています。就業者比率も5月は58.0%とパンデミック前の61%台を大きく下回っている状況です。この就業者比率は、高齢化の進展や早期リタイアの増加でパンデミック前を回復するのは難しいとの見方も多くなってきています。

 失業率と労働参加率は失業者の復職意欲にもかかっています。その意欲の阻害要因と言われている失業給付の特別加算を6月から打ち切る州が相次いでいます。そのため6月以降は復職意欲が高まり、労働市場に労働者が戻ってくればNFPが大幅に増えてくるかもしれません。

 それでも、770万人の雇用喪失を回復するには1年近くかかりそうです。テーパリングの開始の判断はNFPがパンデミック前の水準をいつ回復するかが重要となります。

 以前もご紹介しましたが、リーマンショックの時には約870万人の雇用が喪失し、FRBがテーパリングに言及したのは雇用喪失が250万人まで回復してきた時であり、100万人になった時点でテーパリングを開始したそうです。今回に当てはめると、後520万人雇用が回復すれば、テーパリングに言及するとなると、月100万人回復ペースで5カ月、80万人回復ペースで6.5カ月、60万人回復ペースで約9カ月かかる計算となります。テーパリングへの言及は10月から来年2月の間ということになります。9月のFOMCで示唆し、11月か12月のFOMC(連邦公開市場委員会)で言及し始めるということかもしれません。

 あくまで机上の計算ですが、それまではインフレへの警戒と量的緩和縮小への期待に翻弄される相場が続きそうです。一方で、米貿易赤字と財政赤字という双子の赤字はドル安要因になります。

 8日に発表された4月の米貿易赤字は今年に入って初めて前月比で縮小しましたが、3月までは過去最大の貿易赤字を更新していました。また、バイデン政権が大きく打ち上げた追加経済対策は共和党との交渉過程で縮小する気配ですが、財政赤字は拡大する方向です。すなわち、「双子の赤字の拡大」 vs 「インフレ警戒・量的緩和縮小期待」との綱引き相場がしばらく続き、決着は未だ時間がかかりそうです。

 今週は10日に、先月マーケットを騒がせた米国の5月CPIが発表されます。ベース効果など昨年の反動による物価上昇はマーケットでは認識されていますが、相場の振れが大きくなることも予想されるため注意が必要です。