先週のドル/円は「行って来い」相場

 先週のドル/円は、再び1ドル=110円台で「行って来い」の相場となりました。米雇用統計の前日6月3日に発表されたADP米雇用統計や米新規失業保険申請がよかったことから、米長期金利が上昇し、ドル/円は110.30円近辺まで上昇しました。しかし、翌4日の米雇用統計の非農業部門雇用者数(NFP、Non Farm Payrolls)が予想を下回ったため、前日までに買い上げ過ぎたポジションの巻き戻しと110円台の売り意欲が強かったことから、ドル/円は再び110円台に留まることができませんでした。

 110円は、やはり心理的節目として強い水準であることが確認されました。110円は上がる時(円安)も下がる時(円高)も強い節目になりますが、110円以下で1年以上推移していたことから、現在では円高から円安に行く方向での強い抵抗ポイントとなっています。また、110円以下で長期間留まっていたことから、日本の輸出企業にとっては110円以上の売り意欲が強くなっているようです。日本の機関投資家も、110円以上ではヘッジ目的のドル売り関心は強いようです。

 5月の終わりと今回の動きによって110円前半と109円前半のレンジが形成されたことから、当面はこの狭いレンジを中心とした動きになりそうです。

 今回の米雇用統計では量的緩和縮小を急ぐ数字ではなかったことから、6月15~16日のFOMC(連邦公開市場委員会)では相場が翻弄されることはなさそうです。また、FOMC終了まではFRB(米連邦準備制度理事会)高官の発言が禁じられるブラックアウト期間に入るため、6月前半は相場の動きが乏しくなる可能性があります。

 米雇用統計のNFPは予想を下回ったものの、悲観する数字ではありませんでした。先月はNFPが予想100万人に対して26.6万人と発表されたため、ネガティブサプライズとなり、108.40円近辺まで下落しましたが、今回は予想65万人に対して55.9万人であり、悪い数字ではありませんでした。ただ、前日の雇用関連指標がよかったことから期待が膨らんだ分、その反動が大きくなったようです。期待と反動で相場は振らされましたが、相場を方向付ける数字ではなかったため、相場の方向を探るためには来月以降の雇用統計を待つしかなさそうです。

量的金融緩和縮小の4項目とは

 FRB(米連邦準備制度理事会)が量的緩和縮小を開始するにあたって重視する4項目は、

  1. NFP
  2. 失業率
  3. 労働参加率
  4. 全人口に占める就業者比率

 と、言われています。ワクチン接種の進展と行動規制緩和によって景気が回復し、就業機会は増えてきていますが、新型コロナのパンデミックで失われた雇用は未だ約770万人喪失しています。就業者比率も5月は58.0%とパンデミック前の61%台を大きく下回っている状況です。この就業者比率は、高齢化の進展や早期リタイアの増加でパンデミック前を回復するのは難しいとの見方も多くなってきています。

 失業率と労働参加率は失業者の復職意欲にもかかっています。その意欲の阻害要因と言われている失業給付の特別加算を6月から打ち切る州が相次いでいます。そのため6月以降は復職意欲が高まり、労働市場に労働者が戻ってくればNFPが大幅に増えてくるかもしれません。

 それでも、770万人の雇用喪失を回復するには1年近くかかりそうです。テーパリングの開始の判断はNFPがパンデミック前の水準をいつ回復するかが重要となります。

 以前もご紹介しましたが、リーマンショックの時には約870万人の雇用が喪失し、FRBがテーパリングに言及したのは雇用喪失が250万人まで回復してきた時であり、100万人になった時点でテーパリングを開始したそうです。今回に当てはめると、後520万人雇用が回復すれば、テーパリングに言及するとなると、月100万人回復ペースで5カ月、80万人回復ペースで6.5カ月、60万人回復ペースで約9カ月かかる計算となります。テーパリングへの言及は10月から来年2月の間ということになります。9月のFOMCで示唆し、11月か12月のFOMC(連邦公開市場委員会)で言及し始めるということかもしれません。

 あくまで机上の計算ですが、それまではインフレへの警戒と量的緩和縮小への期待に翻弄される相場が続きそうです。一方で、米貿易赤字と財政赤字という双子の赤字はドル安要因になります。

 8日に発表された4月の米貿易赤字は今年に入って初めて前月比で縮小しましたが、3月までは過去最大の貿易赤字を更新していました。また、バイデン政権が大きく打ち上げた追加経済対策は共和党との交渉過程で縮小する気配ですが、財政赤字は拡大する方向です。すなわち、「双子の赤字の拡大」 vs 「インフレ警戒・量的緩和縮小期待」との綱引き相場がしばらく続き、決着は未だ時間がかかりそうです。

 今週は10日に、先月マーケットを騒がせた米国の5月CPIが発表されます。ベース効果など昨年の反動による物価上昇はマーケットでは認識されていますが、相場の振れが大きくなることも予想されるため注意が必要です。