ここ数年、講演などの際に「この先想定されるリスクは?」という質問を頻繁に受けるようになりました。恐らく金融危機から受けたショックが癒えず、まだまだ多くの人がリスクに対して過敏になっている結果ではないかと思います。この現象に対しては私なりの考えがあるので、また次号にて述べさせていただきたいと思いますが、今回は敢えて、このような質問にお答えする形で、現在私が想定しているリスクを一つご紹介しておきたいと思います。それは対ドルで固定相場制を採用しているサウジアラビアの通貨、リヤルの切り下げ、及びそれが世界の金融市場に与える影響です。

サウジアラビアは過去30年にわたって1ドルに付き3.75リヤルという固定相場制を採用しています。変動相場制の下では様々な経済調整が為替を通じて行われますが、固定相場制の下では経済の歪みによって生じる為替変動圧力を、金利や為替介入によって調整しなければなりません。ご存知の通りサウジアラビアは世界最大の産油国ですから、どちらかというとリヤル売り・ドル買いによって固定相場を維持し、この結果外貨準備がどんどん積み上がっていくというのがこれまでの傾向でした。

しかし2014年夏以降の原油価格急落によってこの傾向は完全に逆転しました。2014年夏に1バレル100ドル台であった原油価格はその後急落、今年初めには30ドルを割れるに至りました。そしてこの原油価格急落と共に外貨準備も減少を始め、2014年8月に7,370億ドルあった外貨準備は、今年7月末時点で5,550億ドルにまで減少しています。この間、リヤルに大きな売り圧力がかかってきたことは想像に難くありません。