第一に「不透明感」です。もちろん「残留」という結果になっていればこれまでと同じわけですから、不透明感はありません。しかしでは、離脱という結果になれば実際にどのような影響が出るのか、説明できる人は少ないのではないかと思います。結局それを合わせて「不透明感」と受け止め株式投資のリスクプレミアムが上昇し、株式が下落しただけのように見えます。

第二に英ポンドをはじめ欧州通貨下落の影響です。それら通貨の下落は裏を返せばドル高ですから、昨年のように、アメリカ企業のドル建て収益が圧迫されるというものです。しかし確かに、英ポンドは今年これまで取引されていた1.45前後の水準から1.32半ばに8.5%ほど下落していますが、ユーロは年初から取引されている水準の中心値と概ね同じです。むしろ円が買われたこともあり、対主要通貨のドル指数も年初来の中心水準とほぼ変わらないので、これをもって米国株式を売り込むのも無理があると思います。

ちなみに前号で書かせていただいた通り、そもそもドル円の適正水準は弊社の計算では99円台だったので、英国のEU離脱は適正水準に向かうきっかけになっただけであって、遅かれ早かれいずれ見るべき水準だったと考えています。

第三に、金融システムに与える影響です。もちろんロンドンが金融街シティーとしての地位を失えば、英国にとっては大打撃となるでしょう。またもともと不良債権が多めの欧州系銀行にとって新たなストレスが加わったことは間違いないでしょう。しかし「リーマンショック」の時のように、それが海を越えて飛び火するかといえば、それは違うと思います。先週FRBから「リーマンショック級」のストレスをかけたアメリカ大手金融機関のストレステストの結果が発表されましたが、欧州系であるドイツ銀行及びサンタンデール銀行以外は合格。7年前に5.5%しかなかった自己資本比率は12%にまで上昇。金融危機の反省から、カウンターパーティリスクも厳密に管理されています。

「リーマンショック」以降、アメリカ議会が一時的に政府機関を閉鎖した時も「リーマンショック級」、ギリシャ危機が起こった際も「リーマンショック級」、中国経済の減速も「リーマンショック級」、アメリカで車が売れれば「自動車ローンが次のリーマンショックに」と、「リーマンショック」はあらゆる所で引用され、比較されてきました。このような中、今回の英国のEU離脱も反省材料にして、我々はそろそろ学ばないといけないと思います。次の「リーマン狼少年」に踊らされてはいけない、ということを。

(2016年7月2日記)