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英国のEU離脱と「リーマンショック」
堀古 英司
ウォール街から~米国株の魅力~
ニューヨークのヘッジファンド運用マネジャーである堀古英司氏による週刊レポート。単なる分析にとどまらず、出来るだけ「裏を読む」という観点で米国経済、市場についてお伝えするコーナーで…

英国のEU離脱と「リーマンショック」

2016/7/4
英国のEU残留・離脱を問う国民投票は離脱という結果になりました。これを受けて世界の金融市場には一時ショックが走り、一部メディアでは「リーマンショック」と比較する記事が散見される事態となりました。
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英国のEU残留・離脱を問う国民投票は離脱という結果になりました。これを受けて世界の金融市場には一時ショックが走り、一部メディアでは「リーマンショック」と比較する記事が散見される事態となりました。

私がここで何故、「リーマンショック」をカギ括弧入りで記したか。それは「リーマンショック」は和製英語だからです。アメリカで「リーマンショック」と言っても、何のことか察してはもらえるとは思いますが、まずこの表現は使いません。ということは「リーマンショック」という文字を見るときは、少なくとも日本で書かれたか作られた情報だということです。そして日本で「リーマンショック」を目にする時はどういう時か。それはこういう時が多いと思います→第317回何故メディアの情報を鵜呑みにしてはならないか

すなわち、メディア間の競争が厳しくなっている中、経済や金融市場に不透明要因が出てきたらあの、100年に一度と言われた「リーマンショック」と同等、又はそれ以上の可能性を示唆することによって読者や視聴者の興味を引いたり、クリック数を増やしたりするのが目的と疑ってみるべきだと思います(というこの記事のタイトルもそうなってしまいましたが・・・)。

それでは実際、英国のEU離脱と「リーマンショック」、そもそもどんな共通点があるのでしょうか?

「市場が予想していなかった」というのは一つかもしれませんが、その点では英国のEU離脱の方がそうだったでしょう。市場では概ね、人が合理的な選択をするとの前提に予想が形成されていくので、まさか、イギリス国民が少なくとも短期的には自分達にマイナスになる判断をするとは考えていなかったのでしょう。一方で「リーマンショック」につながる金融危機は2007年7月から始まっており、またリーマンブラザーズの1週間前に実質破たんした政府系金融機関や、直後に危機が訪れた保険会社AIGの影響の方が大きかったかもしれません。金融業界にいる人間にとっては英国のEU離脱ほど予想されていない事態ではなかったと思います。

またもう一つの共通点として、発表された最初の取引日にダウが500ドル以上下落したというのが挙げられます。私はリーマンブラザーズが破たんした当日のテレビ番組で思わず「今日は500ドルの下落で済んでいますが・・・」と言ってしまったのを覚えています。それに対して、英国のEU離脱が更なる米国株式の下落につながるとは、どうしても考えられないのです。市場で言われている可能性は大きく3つほど挙げられます。

第一に「不透明感」です。もちろん「残留」という結果になっていればこれまでと同じわけですから、不透明感はありません。しかしでは、離脱という結果になれば実際にどのような影響が出るのか、説明できる人は少ないのではないかと思います。結局それを合わせて「不透明感」と受け止め株式投資のリスクプレミアムが上昇し、株式が下落しただけのように見えます。

第二に英ポンドをはじめ欧州通貨下落の影響です。それら通貨の下落は裏を返せばドル高ですから、昨年のように、アメリカ企業のドル建て収益が圧迫されるというものです。しかし確かに、英ポンドは今年これまで取引されていた1.45前後の水準から1.32半ばに8.5%ほど下落していますが、ユーロは年初から取引されている水準の中心値と概ね同じです。むしろ円が買われたこともあり、対主要通貨のドル指数も年初来の中心水準とほぼ変わらないので、これをもって米国株式を売り込むのも無理があると思います。

ちなみに前号で書かせていただいた通り、そもそもドル円の適正水準は弊社の計算では99円台だったので、英国のEU離脱は適正水準に向かうきっかけになっただけであって、遅かれ早かれいずれ見るべき水準だったと考えています。

第三に、金融システムに与える影響です。もちろんロンドンが金融街シティーとしての地位を失えば、英国にとっては大打撃となるでしょう。またもともと不良債権が多めの欧州系銀行にとって新たなストレスが加わったことは間違いないでしょう。しかし「リーマンショック」の時のように、それが海を越えて飛び火するかといえば、それは違うと思います。先週FRBから「リーマンショック級」のストレスをかけたアメリカ大手金融機関のストレステストの結果が発表されましたが、欧州系であるドイツ銀行及びサンタンデール銀行以外は合格。7年前に5.5%しかなかった自己資本比率は12%にまで上昇。金融危機の反省から、カウンターパーティリスクも厳密に管理されています。

「リーマンショック」以降、アメリカ議会が一時的に政府機関を閉鎖した時も「リーマンショック級」、ギリシャ危機が起こった際も「リーマンショック級」、中国経済の減速も「リーマンショック級」、アメリカで車が売れれば「自動車ローンが次のリーマンショックに」と、「リーマンショック」はあらゆる所で引用され、比較されてきました。このような中、今回の英国のEU離脱も反省材料にして、我々はそろそろ学ばないといけないと思います。次の「リーマン狼少年」に踊らされてはいけない、ということを。

(2016年7月2日記)

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