“北京化”する香港の命運と中国共産党の国家戦略

 今回のレポートでは、この期間温めてきた香港情勢を扱います。私の現段階における考察と見立てを整理したいと思います。

 私自身、2018年9月以来、香港大学を拠点に活動し、2019年6月を境に、香港政治、経済社会を覆った、市民の政府に対する「反送中」デモ、その後、全国人民代表大会(全人代)で《香港国家安全法》が成立した模様も現場で見てきました。それらの考察を、今年2月、拙著『“北京化”する香港の命運:中国共産党の国家戦略』(海竜社刊)という形で上梓しましたが、国際自由都市としての香港の将来を占う上で、最も指摘したかったポイントが以下の3点です。

(1)1997年の中国返還以来、「一国二制度」の下で歩んできた香港の命運を握る最大のプレーヤーは、北京を総本山とする中国共産党であること。香港市民による自由や民主化を求める運動、西側民主国家による圧力や制裁は断続的に発生し、その都度、混乱や摩擦は起こるだろうが、それらの事象が北京政府の政治的意思を変えることはない

(2)《中英共同声明》や《香港基本法》などを通じて、香港が中国本土とは異なる資本主義制度を適用するのを約束された、「一国二制度」の期限2047年を待たずして(サッチャー英首相と香港問題で交渉を行った鄧小平[ダンシャオピン]は、この方針を「50年不変」という文言で修飾した)、少なくとも政治レベル(例えば言論や集会の自由)においては、香港の“北京化”が避けられないこと

(3)中国という巨大マーケットに隣接する香港の国際金融センターとしての機能や重要性に変わりはなく、近い将来、上海や深センといった中国の地方都市、シンガポールや東京といったアジアの他都市に取って代わられる可能性は極めて低い。故に、政治が“北京化”するすう勢の下、経済・金融レベルにおける国際自由都市としての機能を、透明性と信用性を担保する形でいかに保障していくかが焦点となる

 そして、今年3月に北京で開催された全人代を通じて、香港のトップである行政長官、および香港の議会に当たる立法会の議員を選出する選挙制度の見直しが審議され、3月30日、全人代常務委員会が改正案を正式に承認しました。

 中国共産党が主導し、香港政府が追従し、香港市民にはそれを受け入れるしか手立てがない中、着々と進行するこの動きが何を意味するのでしょうか。

 2019年の「反送中」運動を境に、国家の主権、安全、尊厳を死守するためには、香港という地を、西側諸国が注視、関与、干渉する反中国・反共産主義の1拠点として、これ以上“野放し”にしておくわけにはいかない、経済はともかく、政治的にはしっかりとグリップし、「宗主国」である中華人民共和国、「お上」である中国共産党に忠誠を誓い続ける特別行政区に仕立てなければならないという、習近平政権の政治的意思の表れです。

 そして、そんな意思を制度として体現したのが、2020年に施行された《香港国家安全法》であり、2021年に行われた香港選挙制度の見直しです。

 香港に駐在する中国共産党の中堅幹部が私に語ったように、「2021年をもって、中国共産党の香港政策は一つの節目を迎えた」と言っても過言ではないでしょう。その年が中国共産党結党百周年と重なったのは、歴史の必然とすら私は解釈しています。2019~2021年というこの3年間で、香港をめぐって発生してきた一連の流れ、動きというのはセットであり、2047年に向かって伸びる香港の命運へとつながっていくのです。