5.インテルの新しい成長戦略

1)インテルの「IDM 2.0」

 2021年3月23日(火)、インテルは新CEO、パット・ゲルシンガー氏によるウェブキャスト「Intel Unleashed: Engineering the Future」を公開し、新戦略「IDM 2.0」を説明しました。

 IDM 2.0は、インテルの半導体製造において、1.インテルの自社生産、2.外部ファウンドリ(TSMCのようなファウンドリ)の利用、そして3.外部に向けたファウンドリサービス(インテル自身が行うファウンドリ事業)の3つを組み合わせるものです。その中身は次の通りです。

  1. インテルの自社生産:約200億ドル(2兆1800億円)を投じてアリゾナ州に2棟の新工場を建設します。2024年に稼働開始の計画です。プロセスノード(微細化世代)は不明ですが、EUV露光装置を導入できるラインを整備します。EUV露光装置を使う場合は7ナノ以下のプロセスノードになります。
  2. 外部ファウンドリの利用:インテルは今後も大部分のインテル製品を自社工場で製造し続けるとしていますが、外部ファウンドリ(半導体受託生産業者)も利用するとしています。それによって、製品のコストや性能、開発スケジュールなどを最適化でき、より柔軟で拡張性のある対応ができるようになるとインテルは考えています。
  3. 外部に向けたファウンドリサービス:インテル自身もファウンドリサービスを手掛ける計画です(インテル・ファウンドリ・サービス、IFS)。TSMC、サムスンと競合することになります。先端パッケージング技術とプロセス技術を組み合わせること、米国と欧州で生産能力を拡大すること、CPUコア、グラフィックス、AI(人工知能)、ディスプレイなど多くのIP(知的財産権)ポートフォリオを顧客が選択できるようにすることで、TSMCなどの競合と差別化したいとしています(半導体の設計・開発から、生産までを一貫して支援する)。

2)5ナノ、3ナノへの進出はどうなるのか

 インテルが発表した「IDM 2.0」はインテルの新しい方向性、新しい成長戦略を示したものであり、今後の再成長に期待を抱かせるものです。特に、約200億ドルを投じて2棟の最新鋭工場を建設するということは、TSMC、サムスンが巨額投資を続ける中で評価してよいと思われます。ファウンドリ事業を行うことについても、有望な分野なのでこれも評価してよいと思われます。

 ただし、不透明な点もあります。パソコン市場では既にアップルが5ナノSoC「M1」搭載パソコンを昨年11月に発売しており、大きなヒットになっています。アップルでは2022年秋までに全パソコンにM1を搭載する予定であり、その後、おそらくは2022年秋に3ナノSoC搭載パソコンを発売すると思われます。AMDも2021年または2022年に5ナノCPU、GPUに進出すると思われます。

 この中で、インテルはどうするのか。年初にある調査機関が出したように、TSMCの生産によって5ナノCPUを2021年後半に、3ナノCPUを2022年後半に投入するのか、それともこの話はなくなったのか。ファウンドリ事業で競合することになるTSMCが5ナノ、3ナノのような戦略製品をインテルに出荷することがありうるのか、この点は今のところわかりません(インテルは2023年以降、パソコン向け、データセンター向けのコア製品の調達が出来ることを期待しているとしています)。ただし、インテルの7ナノCPUは5ナノ相当の能力を持っているとインテルは言っており、最初の7ナノCPUが投入されるのが2021年4-6月期になったことは大きな進歩です。また、アリゾナ新工場の稼働開始は2024年の計画です。微細化競争は気になりますが、一方でインテルが大きな生産能力をもつようになることは評価してよいと思われます。

 このあたりのことは、今後確認していくしかないと思われます。

3)インテルは2021年12月期業績ガイダンスを公表した

 インテルは、「IDM 2.0」を発表した3月23日に2021年12月期の業績ガイダンスを公表しました。それによれば、2021年12月期は、売上高765億ドル(前年比1.8%減)、売上総利益率54.5%(2020年12月期は56.0%)、税率19%(同16.7%)、EPS4.00ドル(完全希薄化発行済み株式数から計算すると当期純利益は約165億ドル(前年比21.0%減)になる)となる見込みです。

 パソコン需要は好調でCPU出荷も好調ですが、一部部材の品不足によってインテルの業績が抑えられるだろうとしています。また、2021年12月期の設備投資計画は190~200億ドル(前年比33.2~40.3%増)となっており、大型投資による償却負担も予想されます。

 このガイダンスを見て、楽天証券の2021年12月期、2022年12月期業績予想を表4のように下方修正します。2021年12月期を前回の売上高770億ドル(前年比1.1%減)、営業利益230億ドル(同2.9%減)から、今回は売上高765億ドル(同1.8%減)、営業利益204億ドル(同13.8%減)へ修正します。前回予想よりも営業減益幅が拡大すると予想されます。

 また2022年12月期は、前回の売上高825億ドル(同7.1%増)、営業利益255億ドル(同10.9%増)を売上高825億ドル(同7.8%増)、営業利益230億ドル(同12.7%増)へ修正します。大型設備投資が続くと想定してその負担を考慮しました。

 今後6~12カ月間の目標株価は前回と同じ80ドルを維持します。楽天証券の2022年12月期予想EPS4.52ドルに今後の再成長期待を考慮して想定PER15~20倍を当てはめました。今後の成長戦略が示されたことを評価したいと思います。

 引き続き中長期の投資妙味を感じます。

表4 インテルの業績

株価  62.02ドル(2021年3月25日)
時価総額  253,910百万ドル(2021年3月25日)
発行済株数(希薄化後)  4,119百万株
発行済株数(希薄化前)  4,094百万株
単位:百万ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後(Diluted)発行済株数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前(Basic)で計算。

表5 インテル:セグメント別業績(通期)

単位:100万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成

6.半導体関連各社の目標株価を維持する。各社とも中長期で投資妙味を感じる。

 今後6~12カ月間の半導体関連各社の目標株価は変更しません。

 今回のインテルの「IDM 2.0」はインテルの新たな成長戦略を示しはしましたが、TSMCの優位性はこれでは崩れないと思われます。逆に、今後のファウンドリ市場ではインテルという選択肢が出来ることによって、ファウンドリ市場でTSMCに発注が集中することにリスクを感じて自社生産を続けている半導体メーカー(例えばルネサスエレクトロニクスなど)が、自社生産を縮小するか止めて、ファウンドリへの発注を増やす可能性があります。このため、楽天証券ではTSMCの目標株価を変更しません。TSMCに対しては引き続き中長期での投資妙味があると思われます。

 また、インテルの2021年設備投資計画が190~200億ドル(前年比33.2~40.3%増)となったことで、半導体製造装置の需要には弾みがつくことになると思われます。アリゾナ新工場の完成が2024年になることから、2021年、2022年に続き2023年、2024年も半導体製造装置市場にとって重要な年になると予想されます。前工程のアプライドマテリアルズ、ASMLホールディング、東京エレクトロン、SCREENホールディングス、検査装置のレーザーテック、KLA、後工程のアドバンテスト、テラダイン、ディスコなどの主要な半導体製造装置メーカーにとって、大きなブームが続くと予想されます。

 なお、日本とアメリカ上場の半導体関連企業の決算発表日を下に示します。

今後6~12カ月間の目標株価

東京エレクトロン      5万5,000円
アドバンテスト       1万2,000円 
レーザーテック       2万円
ディスコ          4万6,000円
SCREENホールディングス  1万1,000円
TSMC(NY ADR)      170ドル
インテル            80ドル
AMD             100ドル 
エヌビディア        640ドル
マイクロン・テクノロジー  110ドル
アプライドマテリアルズ   150ドル 
ASMLホールディング     750ドル     
KLA              370ドル
シノプシス           310ドル

半導体関連企業の2021年1-3月期決算発表スケジュール

(現時点で決算発表日が公表されている企業のみ。特に記載がない場合は日本企業は3月決算、アメリカ上場企業は12月決算)。

マイクロン・テクノロジー(2021年8月期2Q) 3月31日(水)
TSMC                    4月15日(木)
ASMLホールディング             4月21日(水)
ラムリサーチ                    4月21日(水)
インテル                    4月22日(木)
ディスコ                    4月22日(木)
AMD                       4月27日(火)
アドバンテスト                   4月27日(火)
信越化学工業                  4月28日(水)
東京エレクトロン                4月30日(金)
レーザーテック(2021年6月期3Q)       4月30日(金)
SCREENホールディングス            5月11日(火)
SUMCO(2021年12月期1Q)         5月11日(火)
アプライドマテリアルズ(2021年10月期2Q)   5月20日(木)

本レポートに掲載した銘柄:インテル(INTC、NASDAQ)TSMC(TSM、NYSE ADR)