中国でデータ管理やプライバシー保護はどうなっているのか

 2017年ごろのこと。中国のインターネット大手・騰訊控股(テンセント)でユーザーのデータ管理を統括する中堅幹部(40代、男性)と話をしたことがあります。北京で行われたあるトークイベントの後、楽屋のような場所で、二人でいろいろと話をしていたのですが、こちらから質問したわけでもないのに、先方は突如、次のように言い放ちました。

「我々は、 WeChat(ウィーチャット。筆者注:中国語で「微信」。テンセント社が開発したインスタントメッセンジャーアプリ)のユーザーが世界中どこにいたとしても、彼らの情報に瞬時にアクセス、管理できる」

 この文言自体は大した情報を含んでいませんし、想定内ですが、話のテーマとしてはなかなかセンシティブな内容。彼の言葉にかぶせるように、突っ込んだ質問をしてみました。

「仮に、御社のユーザーの個人情報を、政府当局から提供するように要求された場合、どう対処するか? 御社と当局の間に、ユーザー情報をめぐる恒常的なやり取りはあるのか?」

 先方はひるむわけでもなく、即座に返答してきました。

「ユーザーの情報を恒常的に提供することはない。ただ、弊社が商品やサービスをユーザーに提供する過程で、特に政治的に敏感な内容や対象に及ぶ場合、当局の指導を受ける立場にある。当局から要求されれば、我々はそれを拒否、無視する立場にはない」

 動機、内容、ユーザーの内訳はともかく、政府から「何か」を要求されれば、それに応えることを義務付けられているということ。仮にそれがユーザーの個人情報に及ぶものだったとしても、ユーザーが外国人だったとしても、と解釈して間違いないでしょう。

 LINE問題に関して、筆者が推察する限り、仮に、LINEユーザーの個人情報にアクセスする権限を持っていた中国の技術者が、中国当局から、「この人物に関する情報を可能な限り詳細にまとめ、後日提出するように」と命令されたとして、この技術者にそれを拒否、無視する選択肢はほぼないと言っていいのです。技術者としての職業倫理、LINE社と締結していた業務契約うんぬんに関わらず、やや誇張した表現をすれば、拒否はすなわち「死」を意味します。拒絶後、この人物が中国の領土内で、正常な生活を送ることが困難になるリスクを内包しているということです。本人だけではない。家族や友人、上司や部下にも影響が及ぶ可能性も大いにあります。

 ただ、1民間人がそういう危ない状況に陥ったとしても、味方になってくれる社会のプレーヤーは極めて限られています。中国において、メディアは中国共産党や政府の厳重な監督下にあります。特に、習近平(シー・ジンピン)新時代に入り、この傾向はあからさまに強まっている、政府による横暴をメディアが権力の監視という立場に立って暴く空間や可能性は著しく小さくなっているのが現状だと言えます。