「中国」がLINE問題に火に油を注いだ理由

 23日の会見の中で、出沢社長は、「23日現在、プライバシー性の高い個人情報に関しては、中国からのアクセスを遮断している」と述べ、韓国のデータセンターに保管されているアプリトーク内の画像や動画などについても、国内への移転を6月までに完了する予定であると説明しています。

 今回のLINE問題は、「中国」だけではなく、日本国民の個人情報が国境を越え、考え方や価値観を異にする海外企業に接触されるという問題の敏感性や複雑性を露呈しました。それは、「データはどう管理されるべきか」「個人情報はどこまで順守、尊重されるべきか」「行政と民間との関係はどうあるべきか?」など個人情報保護の根幹の問題です。

 とりわけ近年、日本は中国、韓国との間で、歴史や領土に関わる問題が引き金となり、外交関係や国民感情がしばしば緊張、悪化し、その過程で、企業活動も少なからず影響を受けてきました。仮に、このLINE問題に関わる海外の主要なプレーヤーが、中国、韓国ではなく、米国とカナダ、ドイツとフランス、あるいは台湾とシンガポールだったりすれば、事態はまた違った展開を見せているのではないかと、個人的に推測します。

 そして、このLINE問題を眺める過程で、私の脳裏に浮かんできたのが、中国の通信大手・華為技術(ファーウェイ)です。同社の存在や行動は、国家間で外交問題化してきました。米国のトランプ前政権下でも、「1民間企業」である同社に対して制裁措置が取られるなど、物議を醸してきました。

 私自身、数年前、東欧州にある某国政府の幹部から、ファーウェイからオファーが来ている5G(第5世代移動通信システム)導入を受け入れるべきか否か、相談を受けたことがあります。日本を含めた各国が、中国発の、特に国家機密や個人情報へのアクセスを可能にしてしまう技術や商品への警戒や疑念は全く拭えていません。

 ファーウェイ社に関して言えば、創業者・最高責任者である任正非(レン・ジェンフェイ)氏が、過去に中国人民解放軍に勤務をした経験があるという背景が原因となり、氏自身、解放軍、そして同軍を領導する中国共産党、ファーウェイ社との関係が疑問視されてきました。

 例えば、「ファーウェイ社が自らの技術やサービスを通じて得た他国政府や国民の情報を、党や軍から提供しろと命令された場合に、どう対処するのか?」といった疑念です。

 私から見て、中国は官民を含めた「国民国家」として依然、この疑念を自らの説明や行動で払拭することができていません。このような背景が、LINE問題をめぐる一連の騒動に、「中国」という要素が覆いかぶさるという構造を生んでいるのでしょう。