保険業を元にしたコストゼロ資金を運用する比類なきビジネスモデル

「株主への手紙」には本業である損害保険ビジネスについても述べられている。保険業とはいっても、ここでポイントとなるのは保険金の支払いなどではなく、資産運用への貢献にある。傘下の保険会社は、資本余力が手厚く、それゆえ同業他社には真似することのできない、株式投資を中心にした資産運用を可能にしている。

 バークシャー・ハサウェイは保険料として徴収されたコストゼロの資金を投資に回すことによって莫大な富を築いてきた。投資の巧拙が語られがちであるが、実はバフェットの運用の根幹は、この「コストゼロの資金をベースにしたビジネスモデル」にある。

 バークシャーにおいて最も大きな価値を持つのは損害保険事業で、53年間にわたりバークシャーの中核を担ってきた。当社の保険会社ファミリーは、保険分野では他に類を見ない存在だ。全体的に、バークシャーの保険会社は世界中のどの競合他社よりもはるかに多くの資本で運営されている。この財務力は、バークシャーが保険事業以外の事業から毎年受け取る巨額のキャッシュフローと相まって、当社の保険会社は、圧倒的多数の保険会社では実現不可能な株式を中心とした投資戦略を安全に実行することができる。

 バークシャーは現在、1380億ドルの保険「フロート」を保有している。これは私たちのものではないが、債券、株式、または米国財務省証券などの現金同等物であっても、私たちが運用することができる。フロートは銀行預金と似たようなものである。バークシャーが保有する巨額の現金は、長年にわたって現在の水準に近い状態が続く可能性が高く、私たちにとってはコストがかからない。

 バフェットは引き続き米国経済に強気の姿勢を維持している。昨年の年次総会においてコーラを飲みながら投資家の質問に答えたバフェットは「米国に逆らってかけてはいけない」と強調したが、今回の年次書簡においてもその姿勢を改めて示した。

 アメリカには成功例がたくさんある。この国が誕生して以来、アイデアと野心を持った個人が、ほんのわずかな資本金で、新しいものを創造したり、古いもので顧客の体験を向上させたりして、夢を超えた成功を収めてきた。今日、多くの人々が世界中で同じような奇跡を起こし、全人類に利益をもたらす繁栄の広がりを生み出している。しかし、232年という短い歴史の中で、アメリカのように人間の可能性を解き放つインキュベーターは存在していない。多少の中断はあったものの、アメリカの経済発展は目を見張るものがある。

 その進歩はゆっくりとしたもので、むらがあり、しばしば落胆することがある。しかし、私たちは前進してきたし、今後も前進を続けるだろう。私たちの揺るぎない結論は「アメリカの成長に逆らって賭けてはならない」である。

 投資に損失はつきものだ。投資で損失を出したとしても、早めに見切って損失を限定的なものにとどめるという「見切り千両、損切り万両」をウォーレン・バフェットは実践している。バイ・アンド・ホールドという運だけの長期投資家ではないことが、バフェットの売買した銘柄の履歴をみると浮かび上がってくるのである。