日米金融姿勢の違いが円安を加速

 ドル/円のドル高・円安が止まりません。先週1週間で約2円の円安になったのは驚きでした。米国の1.9兆ドルの追加経済対策への期待から長期金利の上昇が止まらず、ドル高が続いています。9日には9カ月振りに109円台を付けましたが、米長期金利の上昇が一服したことから108円台半ばに下落しました。それでも3月初めに比べると2円程度円安の水準です。3月は陰線が多い月ですが、陰線になるためには106円台半ばよりも円高に進む必要があります。

 1月の102円半ばからは約6.5円を超える円安になっており、予想をはるかに超えるスピードでドルは上昇しています。やや、やりすぎの感が強く、期待が先行し過ぎて前のめりになっている気がします。しかし、追加経済対策は間もなく成立とのことであり、要因としてはかなり織り込んでいるため、本来なら成立のニュースとともに、長期金利は下がり、ドル/円も失速するシナリオが予想されますが、どんどん新たな要因が加わりドル高が進行しています。

 その1つは先週5日(金)に発表された米国の雇用統計です。非農業部門雇用者数は予想18万人の増加に対して37.9万人の大幅増加となりました。また、失業率も6.2%と前月より改善されました。景気回復への期待から長期金利は下がらず、上昇を続けています。

 そして、107円台から加速させた、最も大きい要因と思われるのが、日米の金融政策に対する姿勢の違いが鮮明になったことです。

 先週4日、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は米紙ウォール・ストリート・ジャーナル主催の会合で講演し、マーケットが期待していた長期金利上昇の抑制策に言及しませんでした。パウエル議長は、最近の米国債利回りの急上昇については「市場の混乱が起きれば不安材料になる」と市場動向を注視していく考えを強調しつつも、インフレ懸念には「一時的な物価上昇には忍耐強くあたる」とし、「2%超のインフレ率と雇用の最大化という政策目標は、極めて遠い道のりだ」とゼロ金利政策と量的緩和政策を長期間続ける考えを改めて表明しました。

 パウエル議長は2月下旬の議会証言では、「金利上昇は経済成長の期待の表れ」と静観していましたが、今回の講演では修正し、やや警戒感を示しました。しかし、具体的な抑制策に言及しなかったことから、米10年債利回りは再び上昇しました。

 一方、黒田総裁は、5日、衆院財務金融委員会で「米国の長期金利が上昇しても日本では長期金利の変動幅を拡大する必要があるとは考えていない」とFRBとは逆のスタンスを示しました。この発言を受けて日本の長期金利は急低下しました。為替市場では、長期金利に対する抑制策に言及しない米国と、長期金利の上限を変更せず、引き続き現行の枠組みで抑制していく日銀との姿勢の違いが鮮明になったため、円安を後押しした格好となりました。

 来週16~17日のFOMC(米連邦公開市場委員会)、18~19日の日銀金融政策決定会合で、長期金利に対する日米の金融スタンスの違いが埋められるかどうか注目です。