2つのハイパーインフレとインフレ危機が顕在化するための2つの「前提条件」

 制御不能なインフレの例として取り沙汰されるのは、1920年代初頭のワイマール共和国のハイパーインフレと1990年代初頭のロシアのインフレ危機の2つがある。米国では前述のように財政も金融もアクセル全開となっており、市中に流通する貨幣量は、1年間で26%も増加しており、これは1943年以降で最大の年間増加率となっている。

 賢者は歴史に学ぶ。そして歴史は全く同じようには繰り返さないが韻を踏む。原因が何であれ、流通する貨幣の急速な増加と生産能力の低下の組み合わせが、荒れ狂うようなインフレの前提条件となっている。心配なことに、現在、これらの前提条件が満たされていると言う。ゼロヘッジの記事「Is Hyperinflation In The Horizon?(ハイパーインフレの兆しはあるのか?)」から、一部抜粋しつつ過去のハイパーインフレの歴史を簡単に振り返っておこう。

2つのハイパーインフレ

 ドイツのワイマールは、第一次世界大戦での敗北によって、不可能なレベルの戦争賠償金を負担することを強いられた。同様に、1980年代末のソビエト連邦の崩壊により、ロシアは計画経済を維持するために必死に借金をしていたソ連末期の膨大な対外債務を抱えることになる。

 それぞれの政府は、圧倒的な国家債務と深刻な改革を必要としている産業基盤に直面していたが、両国政府は、痛みを伴う改革やデフォルトの可能性を避けるために、財政赤字をマネタイゼーションすることで国の需要と生産を維持しようとすることを決定した。

 財政赤字によって両政府とも高い雇用水準を支えていた。ワイマールでは失業率は4%以下で推移、ロシアでは1992年から1998年の間に1.1~2.6%の間で推移していた。しかし、労働生産性は劇的に低下していた。

その結果:暴走するインフレ

 インフレは、その時々によって高いものから極端なものまで様々あった。ロシアでは、毎月の消費者物価が300%近く上昇した時期もあったが、1992年1月から1995年7月までの月平均インフレ率は21%前後にとどまった。

 ドイツのワイマールでは、毎月の物価上昇率が50%を超えたと定義されるハイパーインフレが本格化した後、1918年11月から1920年3月までの間に700%、1921年半ばから22年半ばまでの間に500%の上昇を経験した。

 いずれの場合も社会的な反響は大きかった。ワイマール共和国のハイパーインフレは、ヒトラーや国家社会主義(「ナチス」)の台頭と結びついた。一方、ロシアでは、インフレが特に中産階級の所得に深刻なダメージを与えたことで、安定への要求が生まれ、ドイツと同様に、これらの不満は強力な指導者の出現によって抑えられた。

 どちらの場合も、主な敗者は中産階級、年金生活者、職業に従事する人々であり、インフレによって購買力は低下した。一方、富裕層は金を含む貴金属を購入するなど、適切な代替金融投資を行い、高インフレを回避する手段を持っていた。

 このように、赤字のマネタイゼーションは、本来助けることを目的としている人たちを最も痛めつける傾向がある。このことは、「雇用保証」や「赤字は問題ではない」といった考えが蔓延している今、まさに思い出すべき歴史であろう。

われわれは今どこにいるのか?

 心配なことに、ワイマールや1990年代のロシアで極端なインフレを引き起こした条件のいくつかが浮かび上がってきている。一つは、中央銀行がQE(量的緩和)プログラムを10年以上にわたって実施しており、昨年のパンデミックの年には驚異的な増加を見せている。二つ目は、サプライチェーンの混乱が発生し始めており、これが生産能力を圧迫し始める可能性がある。これらはインフレ危機が顕在化するための2つの「前提条件」なのである。

日本銀行、ECB、FRBのバランスシート

出所:ゼロヘッジ

 数カ月後にはインフレの証拠が現れ始める可能性がある。インフレ期待は、米国などではまだやや低い水準にあるものの急速に上昇する可能性がある。

向こう5年間の期待インフレ率の推移

出所:ゼロヘッジ

急速なインフレは大惨事を引き起こす

 大量の貨幣が流通する中、「インフレに対する恐怖」に火をつけるのは、例えば米国の経済活動の改善などによって貨幣の流通速度が上昇することもある。インフレが突然急加速した場合、消費者や企業の間で過剰反応、ショックが起こり、インフレ期待値が大幅に、同時に上方に修正される可能性がある。中央銀行が経済をコントロールし、危機を「好きなように」止めることができると信じて自己満足に陥ってきた。

 急激なインフレが発生すれば、中央銀行は最終的に利上げを余儀なくされ、過大なレバレッジをかけてゾンビ化した企業や債務超過でゾンビ化した欧州諸国は連鎖的に倒れるだろう。金融市場の完全な混乱によって世界が不況か恐慌に陥るのは明らかだ。

 グレートリセット=圧縮された時間枠で世界経済をクラッシュさせようとする強烈なドライブは、デジタルゼロの中央銀行の貨幣を作り出すためのものである。現在、中央銀行は、何千億もの貯蓄された資本のコントロールを失いつつある。

 世界は人為的につくられた流動性で溢れている。この流動性の恩恵を受けることができた人たちは笑いが止まらない状態だが、流動性がストップしてしまうと悲惨な状況に襲われることになる。