「実態経済」が先か、それとも「株価」が先か
8日(月曜)の東京株式市場で日経平均株価は、1990年8月以来30年6カ月ぶりに29,000円を突破し、バブル崩壊後の最高値を更新した。米国株式市場ではダウ平均は6日続伸し、史上最高値を更新。
世界の投資家を悩ませている最大の「謎」。それは最悪の経済と株価のかい離です。世界経済は悪化しています。良い方向に向かうという「希望」はありますが、足許の経済が改善しているわけではない。米国では「中小企業が毎日倒産している」とイエレン財務長官は憂慮しています。それなのに、なぜ株価が史上最高値か、あるいはそれに近い水準で取引されているのか。
コロナウイルスの感染大流行によって、世界経済は数百年ぶりとはいわないまでも、この数十年間で最も急激かつ深刻な同時不況に陥った。それにもかかわらず世界の株式市場は高値を更新し続けている。
今月発表された米国の1月雇用統計では、失業率は6.3%で高止まりするなか、NFP(非農業部門の雇用者)はわずか4.9万人の増加にとどまっています。しかしマーケットはまったく心配していない。むしろ「悪くてよかった、その方が景気対策はデカくなる。」今日の経済が悪いほど明日の経済回復は強くなるという超前向きの理屈で、株価が上昇しているわけです。
世界株高の原動力はマーケットの超ポジティブ思考ですが、それを支援しているのが世界の主要中央銀行と中央政府による金融・財政支援であることは間違いない。FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は、「予測できる将来にわたって、FRBは低金利政策を継続する」と言明しています。一方でバイデン政権は、日本の国家予算(一般会計)に相当する規模の景気刺激策を実施しようとしている。「利息ゼロの預金をするくらいなら株を買え」と解釈できます。
しかし好景気と低金利は永遠に続かない。景気が回復しないというおそれは薄れましたが、一方でインフレ急上昇のリスクが高まっています。サマーズ前財務長官もバイデン景気刺激策が過去30年以上経験したこともないような狂乱物価を招くと警告を発しています。
株高が流動性(緩和政策)によってつくりだされたとするなら、中央銀行が流動性を止めたときどうなるか。株価に実態経済が近づくよりも先に、株価が実態経済に近づくことも起こりえます。