2.3ナノ半導体量産ラインのEUV露光装置は、ペリクルありかペリクルなしか
レーザーテックのマスク欠陥検査装置の中で、EUV露光装置用マスクに対して使える機種は、「MATRICS X8ULTRA」(マスク欠陥検査装置。DUV光を使う)、「ACTIS A150」(マスク欠陥検査装置。EUV光を使う)、「ABICS E120」(マスクブランクス欠陥検査装置。マスクブランクスはマスクの材料。EUV光を使う)、「BASICS series」(マスク裏面検査装置。DUV光を使う)の4機種であり、会社側ではこれら4機種を合わせて「EUV関連」と称しています(これに、EUVマスクブランクスの材料であるEUVサブストレートの検査を行う「MAGICS M9650」(DUV光を使う)を加える場合もある)。
EUV関連で現在の売上の主力になっていると思われるのは、EUV用マスク欠陥検査装置「X8ULTRA」です。DUV光を使ってマスク検査をします。
5ナノ半導体の製造ラインに設置されているEUV露光装置のマスク検査に「X8ULTRA」が検査装置としては数多く使われている模様であり、今期も受注、売上が多い模様です。7ナノの初期(TSMCによる7ナノ半導体量産の1年目(2018年)、露光装置はArF液浸露光装置)までのマスクには「ペリクル」(マスクに被せる防塵カバー)を使っていました。これによって検査工程が少なくなり、生産工程が効率化できました。
ところが、7ナノの2年目(7ナノプラス)と現在の5ナノを効率よく大量生産するためにEUV露光装置が導入されると、7ナノ、5ナノ時代のEUV露光装置のマスクは、ペリクルなしになりました。EUV光に対して透過率が高く耐久性のあるペリクルを開発することができず、ペリクル付きマスクの検査装置もなかったためと思われます。ペリクルなしになった結果、マスクに微細なごみや傷が付くようになり、マスク欠陥検査装置が大量に必要になりました。このため、レーザーテックの「X8ULTRA」の受注、出荷が増加し、これが今日までの好業績に結び付きました。
一方で、2022年春~夏に量産開始が予想される3ナノ半導体の生産ラインには、これまでよりも多くのEUV露光装置が導入されますが、これに使うEUV用マスクがペリクルありなのか、ペリクルなしなのか、まだ決まっていないもようです。EUV光に対する透過率が高く、耐久性の高いペリクルは現在開発中であり、まだ完成していないからです。来年の3ナノ量産開始に検査装置を間に合わせるためには、今年秋頃までにペリクルありかペリクルなしかを決める必要があると思われます。
これが決まると、半導体メーカーからレーザーテックに対して、3ナノ量産ライン用に「ACTIS A150」の発注があると思われます。ペリクルなしの場合「X8ULTRA」の改良型の可能性もありますが、「ACTIS A150」は、ペリクルあり、ペリクルなし、両方で使えます。EUV光でなければ見つけることが出来ない極めて微細な「位相欠陥」を見つけることも出来るため、3ナノのEUV用マスク欠陥検査装置の本命と言ってよいと思われます。
「ACTIS A150」は、現在のところ数台を大手半導体メーカーに納入して、量産ラインへの導入に関して評価中であるもようです。これまでに納入した評価用製品の価格は推定で50~80億円と思われますが、量産ラインへの導入が決まれば、正式に価格が決まる見込みです。
3ナノラインも5ナノライン同様、ペリクルなしのほうがマスク欠陥検査装置の導入台数は多くなる見込みです。見込み客になるのは、TSMC、サムスン、インテル、マイクロン・テクノロジー、SKハイニックスの5社と思われます。3ナノ半導体の量産メーカー、DRAMの大手メーカーになります。
仮に、3ナノ量産ラインのEUV露光装置がペリクルありになり、「ACTIS A150」について1台最大80億円で年間約10台の受注があった場合、その他の検査装置等の受注と合わせて年間1000億円を超える受注が2~3年以上続く可能性があります。ペリクルなしになった場合は、ペリクルありに比べてより大きい受注額が期待できると思われます。
これらのことを考えると、3ナノ工程のEUV露光装置がペリクルあり、なしにかかわらず、2022年6月期、2023年6月期のレーザーテックの全社受注高、売上高、営業利益は、高い率で成長する可能性が高いと予想されます。
なお、レーザーテックと競合する米KLAは、現在もEUV光を使ったマスク欠陥検査装置を出荷していません。DUV光と電子ビームを使った検査装置は販売していますが、EUV光を使った「ACTIS A150」のほうが速く検査できます。今のところはレーザーテックが優位に立っていると思われます。
図1 半導体用露光装置の仕組み
3.2021年6月期~2023年6月期楽天証券業績予想を上方修正する
楽天証券では、2021年6月期の会社側の受注予想と業績予想が上方修正されたことを受けて、2021年6月期~2023年3月期の楽天証券業績予想を上方修正します。従来の営業利益予想は、2021年6月期190億円、2022年6月期290億円、2023年6月期420億円でしたが、これを2021年6月期200億円、2022年6月期310億円、2023年6月期460億円と予想します。「ACTIS A150」の売上高については、ペリクルありとペリクルなしの中間ケースを想定しています。
表3 レーザーテックの売上高内訳:通期ベース
表4 レーザーテックの受注高、受注残高内訳:通期ベース
4.今後6~12カ月間の目標株価は、2万円を維持する
今後6~12カ月間の目標株価は、前回同様2万円を維持します。前回の考え方と同じで、2023年6月期予想営業増益率48.4%にPEG1.0~1.5倍として想定PERを約60倍として、2023年6月期楽天証券予想EPS 357.1円に当てはめました。
引き続き中長期の投資妙味を感じます。