5.なぜEUV露光装置が必要なのか

 世界最大の半導体受託生産業者、TSMCの計画では、ロジック半導体の最先端は2020年初夏から量産が始まった5ナノから、2022年には3ナノ、その2年後の2024年には2ナノへ進むことになります。これを実現するのがASMLホールディングが生産販売を独占するEUV露光装置です。

 前述のように、TSMCは2021年12月期に大型設備投資を行うことを決定しました。それに対してサムスンも追随すると思われます。大きな半導体設備投資ブームが起こり始めていますが、その中でEUV露光装置が焦点になっています。そこで、今回はEUV露光装置のおさらいをしたいと思います。

 図1、2は半導体製造工程の図です。最も重要なのがシリコンウェハ上に各種の膜を作り、その上に複雑な回路を描いていく「前工程」です。この中で最重要装置が「露光装置」です。

 図3は、露光装置の模式図です。細い波長の強力な光を特殊レンズを通してシリコンウェハに照射し、シリコンウェハ上の各種の膜に写真の原理で回路を映していきます。その後、光の照射によって回路が彫られた表面にエッチング処理をしたり薬液等により洗浄します。この工程を何回も繰り返してシリコンウェハ上に回路を構築するのです。

 面積が限られたシリコンウェハ上に複雑な回路を構築する場合は、光の波長を短くしてシリコンウェハ上の線幅を短くする必要があります。40~50年前のg線は波長436ナノメートル、2000年代に実用化されたArFは193ナノメートルです。ArFをレンズの改良によってより細い線が描けるようにしたArF液浸露光装置は、今も一部の先端半導体と汎用半導体の製造工程で主力露光装置として使われています。

 そして、7ナノ半導体の第2世代から製造ラインに導入されたEUV露光装置では13.5ナノメートルというかつてない細い光が使われています。EUVとはExtreme Ultra Violet(極端紫外線)の略です。開発は困難を極めましたが、オランダのASMLホールディングが開発に成功し、現在は市場シェア100%と生産、販売を独占しています。

 ちなみに、1980年代のi線の時代に高い市場シェアを誇っていたニコンとキヤノンはEUV露光装置の開発に失敗し、今は半導体用露光装置市場での存在感はありませんが、液晶用露光装置では高いシェアを維持しています。

 EUV露光装置は5ナノから3ナノへ向かうときにスペックが向上すると予想されます。同じ波長のEUV光を使いますが、レンズ等からなる光学系、レジストなどの材料の改良やマルチパターニングという運用方法の改良などによって、3ナノ、2ナノへ対応できるようになる見込みです。ただし、微細化世代が進むにつれてEUV露光装置の価格も高くなる見込みです。

図1 半導体の製造工程:前工程

図2 半導体の製造工程:後工程

図3 半導体用露光装置の仕組み

グラフ3 半導体用露光装置の光源の波長

単位:nm(ナノメートル)、出所:各社資料より楽天証券作成

6.EUV露光装置関連銘柄

 EUV露光装置の周辺で使う半導体製造装置や検査装置、各種材料は、EUV専用でなければ使えない場合があります。

 まず、露光装置の周辺に置く半導体製造装置では、コータ/デベロッパ(ウェハへのレジスト(塗布剤の一種)の塗布と現像を行う)について東京エレクトロンがASMLからEUV露光装置対応の認証を得ており、同社のEUV露光装置対応コータ/デベロッパがシェア100%となっています。

 EUV用フォトマスク(フォトマスクに回路を描き込んでそれをシリコンウェハ上に写す)とその材料であるEUV用マスクブランクスの欠陥検査装置はレーザーテックが実用化しており、市場シェア100%となっています。

 シリコンウェハもEUV規格のものが必要になります。信越化学工業とSUMCOの2社がEUV対応シリコンウェハを量産しています。

 その他、フォトマスクではHOYAなど、レジストでは東京応化工業などがEUV対応製品を生産、販売しています。

 EUV対応製品はそれまでの微細化世代に対応した製品よりも価格が高いため、EUV露光装置が普及するにつれて、各関連企業の業績への寄与が大きくなっていくと思われます。

表5 EUV関連銘柄

出所:楽天証券作成

表6 半導体製造装置の主要製品市場シェア(2019年)

出所:会社資料、報道、ヒアリングより楽天証券作成。一部楽天証券推定。

本レポートに掲載した銘柄:ASMLホールディング(ASML、アムステルダム、Nasdaq)レーザーテック(6920)東京エレクトロン(8035)