中国には「強大国」と「途上国」という“二つの顔”がある?
一方で、共産党はいまだ「中国は世界最大の途上国」という自己定義を変えていません。
経済、新型コロナウイルス感染対策、科学技術、軍事などを含め、国家の大国化、強国化という目標と展望を大々的に主張しながら、自らはいまだ途上国だとも宣伝しているのです。
中国には二つの顔がある。
中国はあえて、ダブルスタンダードを利用している、とも言い換えられるでしょう。
共産党は、国内的には大国化、強国化を宣伝することで、国民を鼓舞、扇動し、党自らの正統性強化につなげつつ、対外的には「途上国」を武器に、能力の限界や責任の回避を追求してきました。これはまぎれもなく共産党の戦術であり、日本を含めた国際社会は、大国化、強国化する中国に対して、「能力には責任が伴う」という普遍の原理をしつこく説いていく必要があると思います。
「中国には中国の国益、国情がある」の一点張りで、力で香港、南シナ海、尖閣諸島沖などの現状変更を試みる拡張的な中国の言動には、断固として反対していくべきです。相手国の権益や国際秩序、規則、価値観を尊重することで、初めて信用される国になること、それが中国の持続可能な発展につながること、結果中国と国際社会が共存共栄の関係を構築できるようになることを、国際社会は中国に理解してもらうべきです。
その中で日本は官民を越え、世界の先頭に立って、この点を中国の官民に説いていく資格、能力、責任があると私は考えています。
話が若干、それてしまいました。中国が「強大国」と「途上国」というダブルスタンダードを戦略的に利用してきた一方で、約14億人の巨大国家には、「二つの顔」が同時に潜んでいるというのもまた客観的事実だといえます。
一つ例を紹介します。
2020年5月下旬、2カ月の延期を経て開催された全国人民代表大会(全人代)にて、李克強(リー・カーチャン)首相が、「中国ではいまだ約6億人が月収1,000元(約1万6,000円)以下で暮らしている」と言及して、物議を醸しました。
このとき、私の周りの日本の機関投資家から、「加藤さん、中国には本当にそんなに貧しい人がたくさんいるのですか? 李首相の言い間違えではないのですか?」といった質問が寄せられたのを覚えています。
それから約2週間後の6月15日、国家統計局が主催した記者会見で、付凌晖(フー・リンフイ)報道官が、李氏の指摘は間違っていない現状を立証したのです。
付氏によれば、2019年の統計データでは、中国には低所得者層と中間層の間の低所得者層寄りの層が全人口の約40%、すなわち6.1億人いる、これらの層の平均年収は1万1,455元であるとのこと。確かに、李克強氏が指摘するように、約6億人が月収1,000元以下で暮らしているのです。
これに対し、付氏は「これは基本的国情を反映している。我が国は依然として世界最大の途上国なのであり、広大な農村部と中西部地区には、所得水準が低い人々が相当数いるのだ」と主張し、貧困撲滅と農村部振興という任務の重要性を指摘しています。同時に、「我が国の経済が持続的に発展するに伴い、これらの層に属する人々が中産階級の層へと入っていくことだろう。我が国の国内市場潜在力は巨大である」とも付け加えました。李氏によれば、中国には現在4億人の中産階級がいます。
新型コロナ下でプラス成長を達成し、GDPで100兆元の大台に乗せた中国経済にとって、今後根本的に重要になってくるのは、高齢化する人口構造のもと、いかにして、国内市場の潜在力を活性化させるか、1万ドルに達した一人当たりのGDPを増やしていくか、中産階級のパイを質的に拡大するか、環境や人権に配慮しながら、持続可能な発展を追求し、国際社会との相互信任、共存共栄を実現していくかに、他なりません。
「100兆元!」「プラス成長!」が単なるプロパガンダではなく、中国に実質的な行動と責任をもたらすきっかけになることを願ってやみません。