中国経済が2.3%成長、米中GDP逆転も射程圏内か?

 100兆元!

 最近、中国の市場や世論をにぎわせている数字です。

 1月18日、中国国家統計局が2020年の経済統計を発表。2020年第4四半期(10-12月)の実質GDP(国内総生産)は前年同期比6.5%増、通年でも前年比2.3%増となりました。

 習近平(シー・ジンピン)共産党総書記ら指導者が、年末年始に随所で表明してきたように、世界経済がコロナ禍に見舞われる中、「中国は主要国の中で唯一のプラス成長を実現する」という目標を達成する見込みです。

 冒頭の「100兆元」は、その2020年GDP(速報値)である101兆5,986億元を指しています。経済成長率の水準は、世界に先駆けて新型コロナ前に戻り、2028年にも中国経済がGDPで米国を追い抜く、なんていう試算や予測まで見られるようになっているのが現状です。

「この数字は、我が国の経済力、科学技術力、総合国力が再び新たな大台に乗ったことを意味している」

 18日、国家統計局が主催した記者会見にて、寧吉哲(ニン・ジージャー)局長がこう宣言しました。

 100兆元以外にここ数日、中国政府が熱心に宣伝しているのが、国民の可処分所得が2020年に3万2,189元となり、2010年と比べて倍増したというデータです。

 中国では一時期、「国進民退」という言葉が流行(はや)りました。国民経済が国家経済に追いついていない、国が中国共産党一党支配の下で強大化する中、国民がその恩恵を享受できていないという曲がった構造、世論の不満を表しています。ポスト・リーマン・ショック時代に当たる過去の10年間、中国政府は特にこの構造や不満の解消に努め、随時その成果をアピールしてきたのです。

中国には「強大国」と「途上国」という“二つの顔”がある?

 一方で、共産党はいまだ「中国は世界最大の途上国」という自己定義を変えていません。

 経済、新型コロナウイルス感染対策、科学技術、軍事などを含め、国家の大国化、強国化という目標と展望を大々的に主張しながら、自らはいまだ途上国だとも宣伝しているのです。

 中国には二つの顔がある。

 中国はあえて、ダブルスタンダードを利用している、とも言い換えられるでしょう。

 共産党は、国内的には大国化、強国化を宣伝することで、国民を鼓舞、扇動し、党自らの正統性強化につなげつつ、対外的には「途上国」を武器に、能力の限界や責任の回避を追求してきました。これはまぎれもなく共産党の戦術であり、日本を含めた国際社会は、大国化、強国化する中国に対して、「能力には責任が伴う」という普遍の原理をしつこく説いていく必要があると思います。

「中国には中国の国益、国情がある」の一点張りで、力で香港、南シナ海、尖閣諸島沖などの現状変更を試みる拡張的な中国の言動には、断固として反対していくべきです。相手国の権益や国際秩序、規則、価値観を尊重することで、初めて信用される国になること、それが中国の持続可能な発展につながること、結果中国と国際社会が共存共栄の関係を構築できるようになることを、国際社会は中国に理解してもらうべきです。

 その中で日本は官民を越え、世界の先頭に立って、この点を中国の官民に説いていく資格、能力、責任があると私は考えています。

 話が若干、それてしまいました。中国が「強大国」と「途上国」というダブルスタンダードを戦略的に利用してきた一方で、約14億人の巨大国家には、「二つの顔」が同時に潜んでいるというのもまた客観的事実だといえます。

 一つ例を紹介します。

 2020年5月下旬、2カ月の延期を経て開催された全国人民代表大会(全人代)にて、李克強(リー・カーチャン)首相が、「中国ではいまだ約6億人が月収1,000元(約1万6,000円)以下で暮らしている」と言及して、物議を醸しました。

 このとき、私の周りの日本の機関投資家から、「加藤さん、中国には本当にそんなに貧しい人がたくさんいるのですか? 李首相の言い間違えではないのですか?」といった質問が寄せられたのを覚えています。

 それから約2週間後の6月15日、国家統計局が主催した記者会見で、付凌晖(フー・リンフイ)報道官が、李氏の指摘は間違っていない現状を立証したのです。

 付氏によれば、2019年の統計データでは、中国には低所得者層と中間層の間の低所得者層寄りの層が全人口の約40%、すなわち6.1億人いる、これらの層の平均年収は1万1,455元であるとのこと。確かに、李克強氏が指摘するように、約6億人が月収1,000元以下で暮らしているのです。

 これに対し、付氏は「これは基本的国情を反映している。我が国は依然として世界最大の途上国なのであり、広大な農村部と中西部地区には、所得水準が低い人々が相当数いるのだ」と主張し、貧困撲滅と農村部振興という任務の重要性を指摘しています。同時に、「我が国の経済が持続的に発展するに伴い、これらの層に属する人々が中産階級の層へと入っていくことだろう。我が国の国内市場潜在力は巨大である」とも付け加えました。李氏によれば、中国には現在4億人の中産階級がいます。

 新型コロナ下でプラス成長を達成し、GDPで100兆元の大台に乗せた中国経済にとって、今後根本的に重要になってくるのは、高齢化する人口構造のもと、いかにして、国内市場の潜在力を活性化させるか、1万ドルに達した一人当たりのGDPを増やしていくか、中産階級のパイを質的に拡大するか、環境や人権に配慮しながら、持続可能な発展を追求し、国際社会との相互信任、共存共栄を実現していくかに、他なりません。

「100兆元!」「プラス成長!」が単なるプロパガンダではなく、中国に実質的な行動と責任をもたらすきっかけになることを願ってやみません。

政府主導のインフラ投資と不動産市場がけん引役に

 ここからは、「100兆元」「プラス成長」がどのようになされてきたか、そしてその問題点を検証していきたいと思います。これは、先述、問題提起したように、中国経済が真の意味で持続可能な発展を実現していけるかを占う上で重要な作業になります。

 新型コロナの経済への影響を最小限にとどめるため、中国政府は、例年に比べて積極的、大規模な金融緩和と財政出動を行いました。

 例えば、2020年5月に開催された全人代では、2020年の財政赤字目標を GDP 比で3.6%に設定、前年の2.8%から0.8ポイントも引き上げています。2021年にはこれが再び3%以下に下方修正される可能性はありますが、2020年末のレポート「2021年、中国経済成長8%超か。 8つ視点で予測:内需、環境、IT、食糧、不動産・・・」で指摘したように、中国政府は金融緩和と財政刺激策を安易に緩めるつもりはなく、景気の動向を見ながら柔軟に政策ツールを駆使していく姿勢を隠していません。

 実際に、金融緩和であふれたマネーが不動産市場に流れ込み(一部は目下盛り上がっている株式市場にも流れているように見受けられます)、財政出動は政府主導のインフラ投資を後押しし、これらがけん引役となってプラス成長が達成されたと検証できます。

 また、2021年1月18日に国家統計局が発表した2020年の固定資産投資に関する統計を見ると、1~2月の段階で24.5%減だったのが、1~12月では2.9%(前年比で0.3%増)まで回復しています。

 1月19日、国家発展改革委員会が記者会見を開き、趙辰昕(ジャオ・チェンシン)事務局長が、「通年2.9%増という投資の伸びは、新型コロナの影響を有効的に克服させ、経済の持続的な回復に肝心な作用をもたらした」と振り返っています。趙氏によれば、インフラ、製造業、不動産開発といった重点分野の投資に持続的な改善が見られるとのこと。不動産開発は7%増で、全体の2.9%の2倍以上伸びている計算になります。

 さらに趙氏は、「中央政府の財政出動によって放出された資金と要素がプロジェクトに活用されるという原則を堅持したこと、中央の予算内での投資がけん引役を発揮したこと、地方政府特別債券をしっかりつながったこと」が投資成長に貢献したと指摘しています。

 2020年の全人代では、前述の財政赤字設定以外に、インフラ投資向けの地方政府特別債券の発行枠を1.6兆元増の3.75兆元とすること、13年ぶりに特別国債を1兆元発行することなども決定し、実行に移しています。

 新型コロナ禍でさらなる財政難にもがく地方政府からすれば、お上である中央政府からのこれらの政策を後ろ盾に、道路や空港といったインフラ、そして不動産開発への投資を大々的に実行することで、景気の下支え、GDP確保にまい進してきたというのが、「コロナ禍の経済再生」をめぐる実態だったと回顧できます。

2021年の中国経済は、コロナ抑制と経済再生だけでは足りない

 ただ、そこには中国経済をめぐる深刻な構造的矛盾が含まれているのです。これに関して、国家発展改革委員会の記者会見に同席した厳鵬程(イエン・パンチェン)総合局局長が示唆に富む指摘をしています。

 厳氏は、2021年、金融緩和や財政出動といった政策を全面的に引っ込めるという見方は正しくないこと、経済の平穏で健全な運行を保障するためのマクロ経済政策が急に変更されることはないこと、とりわけ、依然として経営難、資金難に苦しむ市場のプレーヤー、特に中小企業が元気を取り戻すまでは、必要な支持の強度をマクロ経済政策が保持することを確認した上で、次のように問題提起をしています。

「経済の平穏な運行にとって、マクロ経済政策以上に重要なのが、改革とイノベーションだ。昨年以来、新型コロナ対応として、我々はマクロ経済政策の強度を高め、特殊な時期における特殊な措置を打ち出した。これらは経済を安定化させるために重要な役割を果たした。しかし、これら臨時性、救急性を持つ政策が“長久之計”(筆者注:中国経済を長期的に発展させるための施策)になってはならない。経済の回復が常態化する中では、改革とイノベーションの方法を通じて、市場の主体の内部にある原動力を活性化させることで、将来的に起こり得るより複雑な局面に対応していくために、政策的空間を残すべきなのだ」

 厳氏は若干えん曲的な表現を用いていますが、要するに、コロナ禍の収束と経済の回復がある程度達成される中で、中国経済の持続可能な発展にとって最大の急務である構造改革を実行していかなければならないと言っているのです。そこには、国有企業と民間企業、そして外資企業の間の公平な競争を保障するための制度改革、市場化、規制緩和などが含まれます。

 例えば、2020年の小売売上高は前年に比べて3.9%減っています。8月以降はプラスに転じ、11月には前年同月比5.0%増まで回復しましたが、12月は4.6%増(前年同月比)と再び鈍りました。まさに今後の中国経済のけん引役となるべき消費の分野です。

 中国政府も、経済の持続可能な発展を実現するためには、投資や輸出に依存した成長モデルから、内需、消費を生かしたモデルに転換しなければならないと理解しています。そのために不可欠なのが構造改革であり、改革という方法を通じて、雇用を安定的に創出し、国民の所得を向上させ、医療や年金といった社会保障を充実させていかなければならないということです。

 その意味で、日本や欧米を含めた多くの先進国は、いまだ新型コロナ抑制に苦しんでいて、経済再生どころではないのかもしれませんが、2021年の中国経済に求められるのは、最近、再び河北省などで感染者が増え、ロックダウン措置も取られている新型コロナの持続的抑制と、コロナ禍経済からのV字回復もあり、8%増前後のGDP経済成長率が見込める経済再生だけではなく、すでに工程表や具体的内容を掲げている構造改革を同時進行で推し進めていくことなのでしょう。