アップル
1.2019年9月期、2020年9月期と業績が伸び悩んだが、収益構造は変化。
アップルは、スマートフォンのiPhone、パソコンのMac、タブレットのiPad、アップルウォッチなどのウェアラブル機器、音楽ダウンロードサイトのiTunes、音楽サブスクリプションのアップルミュージック、スマホ用アプリとゲームサイトのApp Storeと、主に個人向けの通信、コンピューティング機器とサービス分野に幅広く展開しています。ブランドイメージの高い会社としても知られています。
iPhoneのスマートフォン出荷台数世界シェアは2020年7-9月期で4位11.8%です(IDCによる)。同時期の上位メーカーを見ると、1位はサムスン22.7%、2位ファーウェイ14.6%、3位シャオミ13.1%となっています。2017年11月にアップルが発売した「iPhoneⅩ」シリーズが高価格のために大きな人気とならず、業績は2018年9月期をピークとして2019年9月期、2020年9月期と伸び悩みました。ただし、それ以前から進めていた製品構成の多様化、即ち、iPhoneだけでなく、iPad、Mac、ウェアラブル機器への展開強化とサービス売上高の拡大(iTunes、アップルミュージック、App Store、Apple TVへの展開)が奏功し、年度ベースでは大きな落ち込みとなりませんでした。
この間に利益構造も変化しました。売上総利益に占めるプロダクツ(ハードウェア)の構成比は、2018年9月期76.3%、2019年9月期70.0%、2020年9月期66.2%と低下し、反対にサービスの構成比が同じく23.7%、30.0%、33.8%と向上しています。
表4 アップルの業績
表5 アップルの利益構造
表6 アップル:カテゴリー別売上高(四半期ベース)
表7 アップル:地域別売上高(四半期ベース)
表8 アップル:カテゴリー別売上高(年度ベース)
2.2021年9月期から「iPhone12」シリーズの効果で業績回復か
前述のように、2018年9月期から2020年9月期の3年間に収益構造は変化し、より安定感のあるものになりました。
一方、2021年9月期からは別の変化が期待できそうです。2020年10~11月発売の「iPhone12」シリーズは、特に上位機種の「Pro」「Pro Max」が人気と伝えられています。これについては、2020年12月16日付け日経新聞が、アップルが取引企業(電子部品メーカー、半導体メーカーなど)に対して、iPhoneの2021年1-6月期生産計画を前年比30%増の最大9,600万台とする方針を伝えていると報じています。これが実現すれば、2017年9月期、2018年9月にダブルピークを付け、その後低迷したiPhone販売台数が再び盛り返すと予想されます(グラフ6)。
実際に、2019年9月期、2020年9月期にiPhoneの販売が減少した結果、買い替え需要が増えていると思われます。「iPhone12」シリーズは5Gに対応し、最新の5ナノチップセット(チップセットは、CPU、GPUと周辺半導体を組み合わせたモジュール。生産はTSMC)を搭載しています。そのため、買い替え需要を喚起しやすい状況にあります。
また、今後3年以上の間、チップセット、5Gモデムとも技術革新が進むと予想されます。チップセットは2022年秋発売の新型iPhoneから3ナノのデザインルールを採用する予定です(生産はTSMC)。5Gモデムは、「12」シリーズには7ナノの「X55」(クアルコム製)が搭載されていますが、2021年秋の新型iPhoneには最新型の「X60」(5ナノ)が搭載されると予想されます。このような毎年の技術革新によって、買い替え需要が喚起されると思われます。
パソコンのMacでも大きな技術革新がありました。2020年11月発売の「MacBook」に搭載されているチップセットは「M1」といい、5ナノのデザインルールで生産されています(設計はアップル、生産はTSMC)。これまでのパソコン用CPUの最先端はAMDの「Ryzen」シリーズの最新版でデザインルールは7ナノです(生産はTSMC)。「M1」搭載のMacは処理スピードがこれまでよりも速いため、人気になっています。
グラフ6 iPhone出荷台数
3.今後6~12カ月間の目標株価を165ドルとする。
このように、2021年9月期から3年程度は、iPhoneを中心としたプロダクト販売が盛り返し、業績回復が続くと予想されます。楽天証券では、2021年9月期を売上高3,200億ドル(前年比16.6%増)、営業利益830億ドル(同25.2%増)、2022年9月期を売上高3,700億ドル(同15.6%増)、営業利益1,020億ドル(同22.9%増)と予想します。
今後6~12カ月間の目標株価を165ドルとします。楽天証券の2022年9月期予想EPS 5.18ドルに、規模に対するプレミアムと成長性を考慮した想定PER 30~35倍を当てはめました。中長期で投資妙味を感じます。
なお、ロイター通信は2020年12月21日付けで、アップルが2024年の生産開始を目指しEV(電気自動車)の開発(車載電池技術の開発)に取り組んでいると報じました。実際に2024年にアップル製EVが販売されるならば、従来よりも高いPERが付与される可能性があります。
リスクは、各国の公正取引規制の強化です。部品会社に対する不公正取引の問題が過去提議されたことがあります。AppStoreでゲーム配信する際にアップルがゲーム会社と結ぶ契約が、ゲーム会社にとって不利になっているとも言われています。これも各国規制当局や裁判所の判断に注意が必要です。
(2021年9月期1Q決算発表は1月27日(水)。)
本レポートに掲載した銘柄:アマゾン・ドット・コム(AMZN)、アップル(AAPL)