トヨタ自動車の燃料電池車、新型「MIRAI」に期待
2020年は、世界の株式市場でEV(電気自動車)関連株が軒並み大幅に上昇しました。その中心はEV生産で最先端を走る米国のテスラです。時価総額はトヨタ自動車の2倍以上に達しました。
予想PER(株価収益率)で150倍を超えており、成長期待から、とんでもない高い評価となっています。予想PERで16倍前後のトヨタとは、市場評価がまったく異なります。
テスラがここまで買われるのは、EVが、世界中で次世代エコカーの本命と見なされるようになったからです。世界中の年金・投資信託などで、ESGを重視して投資するマネーが急速に膨らみ、EV関連株に投資資金が集中しました。
ただし、EVが、次世代エコカーとして最初から本命視されていたわけではありません。初期のEVには問題が多く、2014年くらいまでは、ガソリン車の代替は無理と思われていました。ガソリン車と比較して、EVには4つの問題があります。
<次世代エコカーの性能比較・ガソリン車と比較>
第1の問題は、充電に時間がかかることです。急速充電を使ってもフル充電まで20~30分かかるのが普通です。
第2の問題は、1回の充電で走行できる距離(航続距離)が、初期のEVでは100キロメートルくらいしかなかったことです。満タンで500キロ以上走るガソリン車より大幅に短かったので使い物にならないと思われた時期もありました。
ただし、近年車載電池の性能が大幅に向上したおかげで、今は200~300キロ走る車種もたくさん作られるようになりました。ガソリン車並みの航続距離500キロを超えるEVも開発されています。ただし、航続距離の長いEVはまだ価格が高額過ぎます。
実際には航続距離100キロもあれば日常用途には支障ないので、価格が高すぎない普及型で、毎日自宅で夜間に充電して使う方式が定着しつつあります。
EVの第3の問題は、インフラ(充電ステーション)整備です。ガソリンステーションと比べると、まだ数が足りません。将来、EVに乗る人が増えるにしたがって、自然に増加していくと考えられるので心配はしていませんが、それでもガソリン車にくらべて充電時間が長いという問題があるので、混雑する時は充電までの待ち時間が長くなる可能性もあります。
第4の問題は、ガソリン車と比べてまだ価格が高いことです。電池が高額です。ただ、量産が進むにつれて価格は低下してきています。将来はガソリン車並みの価格に下がると考えられます。
EVの航続距離が短すぎて大衆に普及するのは難しいと思われていた2014年ころ、ガソリン車の代替はハイブリッド車からと思われた時期がありました。ガソリン車とほぼ同様の使い勝手の良さから、高い評価を受けるようになりました。
価格は、ガソリン車よりやや高くなりますが、それでも量産によって低下してきています。そのまま世界にハイブリッド車が広がれば、ハイブリッド技術を独占的に所有していたトヨタにとって、大きなチャンスになるはずでした。
ところが、車載電池の性能が向上し、EVが次世代エコカーの本命と考えられるようになった2016年くらいから風向きが一気に変わりました。脱ガソリン車→EV化目標を打ち出す国が急速に増えました。ハイブリッド車は燃費が良くてもガソリンを使うので次世代エコカーと認定しない国が増えました。
イギリス・フランス・ドイツ・スペイン・ノルウェー・スウェーデンなど欧州主要国が2030~2040年までにガソリン車・ディーゼル車の販売を全廃し、すべて環境に配慮したEVなどに切り替える目標を発表しています。大気汚染に苦しむ中国やインドも、同様の方針を打ち出しています。
米国では、トランプ大統領がパリ協定から離脱し環境規制撤廃を唱えていました。その間も、カリフォルニア州など環境意識の高い地域では、独自のZEV規制(排出ガスゼロ規制)を実施し、EVや燃料電池車の販売促進を図ってきました。1月からバイデン政権が始動すれば、米国はパリ協定に復帰し、次世代エコカーを推進する規制を強化していくと考えられます。
EVの性能向上が進むにつれ、EV化を達成する目標時期を早める動きが世界に広がり、それがEV関連株の上昇をさらに後押ししてきました。
このままEVが世界を支配する時代が到来するのでしょうか? それに待ったをかける可能性があるのが、水素エネルギーで走る「燃料電池車」です。トヨタ自動車が2020年12月9日に発売した新型「MIRAI」に期待が集まります。
燃料電池車にも、いろいろな作り方がありますが、今もっとも有望視されているのは「水素タンクに圧縮水素を充填、水素と酸素の化学反応で得られる電気を使ってモーターを回す自動車」です。水素を燃やすときに「水」が発生するだけで、排出ガスはゼロです。EVとともに、燃料電池車も世界各国で次世代エコカーとして認められています。
燃料電池車の良いところは、ガソリン車と同様、短時間(2~3分)で燃料(水素)を充填できることです。また、ガソリン車並みに航続距離を長くできることです。新型MIRAIでは、航続距離850キロを実現しました。EVとの比較で特に優位なのは、燃料充填にかかる時間が短いことです。
ただ、当然ながら、問題もあります。インフラ(水素ステーション)が整っていないこと、価格がきわめて高いことです。将来、燃料電池車の価格が下がって普及が進めば、インフラは自然に整ってくると思います。既存のガソリンステーションに設備投資して、水素も扱えるようにする案が有力です。
問題は、価格です。燃料電池システムを製造するのに高度な技術が必要で、現時点で高いコストがかかります。トヨタが発表した新型MIRAIは、2014年12月に発売した初代と比べて大幅なコストダウンを実現しています。それでも価格は、710万円からとまだ高額過ぎます。
今後、トヨタがどれだけコストダウンを実現できるかに、水素自動車の未来がかかっています。製造業として世界のトップにたつトヨタならば、近い将来、大幅なコストダウンを実現していくのではないかと、予想しています。
トヨタが最初にハイブリッド車を試作したとき、「低燃費のコンセプトは良いが、製造コストが高すぎて一般に普及させるのはむずかしい」と言われました。ところが、トヨタはお家芸のコストダウン努力を続け、ハイブリッド車を大衆車として普及させることに成功しました。
今は「燃料電池車」は、次世代自動車の本命と考えられていませんが、トヨタが大幅なコストカットを実現すれば、EVを凌駕(りょうが)する可能性もあります。自然エネルギーを使った発電から、グリーン水素を作り、自動車を水素で動かす世の中が来る可能性もあると考えています。
そうなることが、自動車を中心として製造業が強い日本株の価値が、世界で見直されるきっかけとなると思います。2021年は、水素エネルギーを活用する技術革新が世界でどれだけ進展するか、注目していきたいと思います。