水素エネルギーへの注目高まる、「脱炭素」切り札に
人類はいよいよ真剣に、脱炭素(脱「化石燃料」)の構造改革を進める覚悟を決めたようです。欧州についで、米国・日本でも、脱炭素の構造改革が進む見通しとなりました。深刻な大気汚染に苦しむ中国やインドなど新興国も脱炭素の目標を示すようになりました。
これには2つの理由があります。
【1】化石燃料を燃やし続けることが、大気汚染や地球温暖化などの環境破壊につながっている事実を無視できなくなった。
【2】太陽光や風力を活用した発電技術が格段に進歩。自然エネルギーによる低コスト発電が可能となってきた。
近年の技術革新で注目すべきは、自然エネルギーによる発電コストの低下です。かつて自然エネルギーによる発電で、発電コストが低いのは「水力発電」と「地熱発電」だけでした。それ以外はコストが高く、政府などによる補助金がないと育成できないと考えられていました。ところが、それは、今では昔話です。
近年は、発電コストの低下で、商業ベースで流通させられる自然エネルギーが増えてきました。たとえば、太陽光発電は政府による補助金がなくても、商業ベースで流通させられる「グリッド・パリティ」を達成しつつあります。洋上風力などもコスト競争力が高まっています。
ただし、自然エネルギーには1つ、重大な問題があります。自然まかせなので、発電量の調整がしにくいことです。また、需要地から遠く離れた場所で発電するものが多く、需要地(都市部)まで運ぶ送電線を確保するのが困難という問題があります。
電気エネルギーの最大の弱点は、「保存」「運搬」が簡単にできないことです。特に、「保存」ができないことが重大問題です。そのため、自然エネルギーによって大量の電気を得ても、それを有効に使うすべがありません。
アフリカの砂漠に太陽光パネルを敷き詰めて一斉に発電すれば、大量の電気を得ることができます。ところが、それを都市まで持ってきて使うすべがありません。仮に送電線を張り巡らせて、砂漠の電気を都市まで運んできても、発電のタイミングと電力消費のタイミングがずれるため、有効に消費できません。
この問題を解決する切り札の1つと考えられているのが、水素です。自然エネルギーによって発電した電気を水素に変え、水素を流通させることで、エネルギー循環社会を作ろうとする試みです。
以下の図をご覧ください。
<水素を使ったエネルギー循環社会(イメージ図)>
自然エネルギーから得た電気で、水を電気分解すると、水素が得られます。その水素をエネルギー源とする、エネルギー循環社会を作ろうという考えです。水素の運搬・保存も簡単ではありませんが、電気を運んだり貯蔵したりするのに比べると、実現可能性は高いと考えられます。
水素エネルギーを使う際は、酸素と化学反応させます。そこで得られる電気を使います。それが、燃料電池といわれる発電システムです。そこで排ガスは出ず、水だけが排出されます。
技術的に越えなければならないハードルはまだたくさんあり、実現まで紆余(うよ)曲折があると思いますが、2040~2050年をめどに、その技術革新・構造改革をやっていく方針を決める国が急速に増えており、今後、急速に技術革新が進むと考えられます。株式市場でも、2021年以降、水素関連株が折に触れて、注目されるようになると思います。
トヨタ自動車の燃料電池車、新型「MIRAI」に期待
2020年は、世界の株式市場でEV(電気自動車)関連株が軒並み大幅に上昇しました。その中心はEV生産で最先端を走る米国のテスラです。時価総額はトヨタ自動車の2倍以上に達しました。
予想PER(株価収益率)で150倍を超えており、成長期待から、とんでもない高い評価となっています。予想PERで16倍前後のトヨタとは、市場評価がまったく異なります。
テスラがここまで買われるのは、EVが、世界中で次世代エコカーの本命と見なされるようになったからです。世界中の年金・投資信託などで、ESGを重視して投資するマネーが急速に膨らみ、EV関連株に投資資金が集中しました。
ただし、EVが、次世代エコカーとして最初から本命視されていたわけではありません。初期のEVには問題が多く、2014年くらいまでは、ガソリン車の代替は無理と思われていました。ガソリン車と比較して、EVには4つの問題があります。
<次世代エコカーの性能比較・ガソリン車と比較>
第1の問題は、充電に時間がかかることです。急速充電を使ってもフル充電まで20~30分かかるのが普通です。
第2の問題は、1回の充電で走行できる距離(航続距離)が、初期のEVでは100キロメートルくらいしかなかったことです。満タンで500キロ以上走るガソリン車より大幅に短かったので使い物にならないと思われた時期もありました。
ただし、近年車載電池の性能が大幅に向上したおかげで、今は200~300キロ走る車種もたくさん作られるようになりました。ガソリン車並みの航続距離500キロを超えるEVも開発されています。ただし、航続距離の長いEVはまだ価格が高額過ぎます。
実際には航続距離100キロもあれば日常用途には支障ないので、価格が高すぎない普及型で、毎日自宅で夜間に充電して使う方式が定着しつつあります。
EVの第3の問題は、インフラ(充電ステーション)整備です。ガソリンステーションと比べると、まだ数が足りません。将来、EVに乗る人が増えるにしたがって、自然に増加していくと考えられるので心配はしていませんが、それでもガソリン車にくらべて充電時間が長いという問題があるので、混雑する時は充電までの待ち時間が長くなる可能性もあります。
第4の問題は、ガソリン車と比べてまだ価格が高いことです。電池が高額です。ただ、量産が進むにつれて価格は低下してきています。将来はガソリン車並みの価格に下がると考えられます。
EVの航続距離が短すぎて大衆に普及するのは難しいと思われていた2014年ころ、ガソリン車の代替はハイブリッド車からと思われた時期がありました。ガソリン車とほぼ同様の使い勝手の良さから、高い評価を受けるようになりました。
価格は、ガソリン車よりやや高くなりますが、それでも量産によって低下してきています。そのまま世界にハイブリッド車が広がれば、ハイブリッド技術を独占的に所有していたトヨタにとって、大きなチャンスになるはずでした。
ところが、車載電池の性能が向上し、EVが次世代エコカーの本命と考えられるようになった2016年くらいから風向きが一気に変わりました。脱ガソリン車→EV化目標を打ち出す国が急速に増えました。ハイブリッド車は燃費が良くてもガソリンを使うので次世代エコカーと認定しない国が増えました。
イギリス・フランス・ドイツ・スペイン・ノルウェー・スウェーデンなど欧州主要国が2030~2040年までにガソリン車・ディーゼル車の販売を全廃し、すべて環境に配慮したEVなどに切り替える目標を発表しています。大気汚染に苦しむ中国やインドも、同様の方針を打ち出しています。
米国では、トランプ大統領がパリ協定から離脱し環境規制撤廃を唱えていました。その間も、カリフォルニア州など環境意識の高い地域では、独自のZEV規制(排出ガスゼロ規制)を実施し、EVや燃料電池車の販売促進を図ってきました。1月からバイデン政権が始動すれば、米国はパリ協定に復帰し、次世代エコカーを推進する規制を強化していくと考えられます。
EVの性能向上が進むにつれ、EV化を達成する目標時期を早める動きが世界に広がり、それがEV関連株の上昇をさらに後押ししてきました。
このままEVが世界を支配する時代が到来するのでしょうか? それに待ったをかける可能性があるのが、水素エネルギーで走る「燃料電池車」です。トヨタ自動車が2020年12月9日に発売した新型「MIRAI」に期待が集まります。
燃料電池車にも、いろいろな作り方がありますが、今もっとも有望視されているのは「水素タンクに圧縮水素を充填、水素と酸素の化学反応で得られる電気を使ってモーターを回す自動車」です。水素を燃やすときに「水」が発生するだけで、排出ガスはゼロです。EVとともに、燃料電池車も世界各国で次世代エコカーとして認められています。
燃料電池車の良いところは、ガソリン車と同様、短時間(2~3分)で燃料(水素)を充填できることです。また、ガソリン車並みに航続距離を長くできることです。新型MIRAIでは、航続距離850キロを実現しました。EVとの比較で特に優位なのは、燃料充填にかかる時間が短いことです。
ただ、当然ながら、問題もあります。インフラ(水素ステーション)が整っていないこと、価格がきわめて高いことです。将来、燃料電池車の価格が下がって普及が進めば、インフラは自然に整ってくると思います。既存のガソリンステーションに設備投資して、水素も扱えるようにする案が有力です。
問題は、価格です。燃料電池システムを製造するのに高度な技術が必要で、現時点で高いコストがかかります。トヨタが発表した新型MIRAIは、2014年12月に発売した初代と比べて大幅なコストダウンを実現しています。それでも価格は、710万円からとまだ高額過ぎます。
今後、トヨタがどれだけコストダウンを実現できるかに、水素自動車の未来がかかっています。製造業として世界のトップにたつトヨタならば、近い将来、大幅なコストダウンを実現していくのではないかと、予想しています。
トヨタが最初にハイブリッド車を試作したとき、「低燃費のコンセプトは良いが、製造コストが高すぎて一般に普及させるのはむずかしい」と言われました。ところが、トヨタはお家芸のコストダウン努力を続け、ハイブリッド車を大衆車として普及させることに成功しました。
今は「燃料電池車」は、次世代自動車の本命と考えられていませんが、トヨタが大幅なコストカットを実現すれば、EVを凌駕(りょうが)する可能性もあります。自然エネルギーを使った発電から、グリーン水素を作り、自動車を水素で動かす世の中が来る可能性もあると考えています。
そうなることが、自動車を中心として製造業が強い日本株の価値が、世界で見直されるきっかけとなると思います。2021年は、水素エネルギーを活用する技術革新が世界でどれだけ進展するか、注目していきたいと思います。
2021年は、水素関連株にスポットライトが当たると予想
2021年は、水素エネルギーが、第四次産業革命(ITによる技術革新)とともに、株式市場で注目されるテーマになると思います。いきなりグリーン水素を活用するのは、むずかしいので、当初は、化石燃料由来の水素を活用した、水素エネルギーの循環システムを作ることから、始めることになると思います。
以下に、関連銘柄を挙げます。
<参考:水素関連企業>
水素関連銘柄への投資には、注意が必要です。水素ビジネスには、将来大きな夢がありますが、現時点で利益を生むビジネスではないからです。水素エネルギーがテーマとして注目される局面で株価が上昇する可能性がありますが、テーマへの熱気がさめると株価が再び下がる可能性もあります。
当面は水素ビジネスに注目しつつも、水素以外のビジネスでしっかり利益をあげていく銘柄でないと、投資していくのは難しいでしょう。上記に挙げた銘柄でいうと、トヨタ自動車、ENEOS HDが投資対象として有望と判断しています。
2021年に世界自動車販売の回復を予想していますので、トヨタは、投資していってもおもしろいと判断しています。2021年に世界景気が回復すれば、原油価格はさらに上昇すると予想しているので、ENEOSも投資していって良いと考えています。
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