2:Xさん(57歳既婚女性・高校教師・大学卒・上海在住)の場合

 Xさんは3年後に定年退職を控えます。上海の有名高校で物理を教えています。旦那さまにも一度お会いしたことがありますが、何の仕事をしているかは分かりません。彼女いわく、「能力が低く、特に取りえがない男。退職して、娘がいる米国に行く前に離婚する」と目を輝かせていました。

 上海という物価高の大都市で暮らすXさんは、出身地の東北地方から移住して30年余、「生活は決して楽ではなかった」と言います。自らの月収は今でも約1万元(約15万円)で、たまに補修を施したり、塾で講師を務めたりしても、年収は15万元程度(約230万円)とのことです。「夫の給料や役割をあてにしたことは過去に一度もない」とも言います。

 そんなXさん夫婦には、5年前に娘が渡米するまで3人で過ごした約80平方メートルの持ち家があります。資産はそれだけ。株も投資信託も買いません。貯蓄は50万元(約750万円)ほどあるようですが、中国共産党の一党支配を全く信じていない、リベラルな価値観を持つ彼女は、資産の安全性という観点から、生活に必要なお金以外、すべて娘の米国の口座に移しています。

 Xさんは言います。

「私にとっての最大の投資先は娘」

 私もXさんの娘(26歳)はよく知っていますが、上海の有名大学卒業後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)の大学院に進みました。専門は精神物理学。Xさんによれば、半年後に卒業を控える娘さんは、大学で教べんをとる選択肢もあったようですが、ボストンにある大手企業の研究開発部門に就職が決まったようです。年俸制で、初任給は20万ドル(約2,000万円)、Xさんの現在の年収の約10倍ですね。しかも、娘さんの報酬には出来高もあり、5年で倍以上の収入が見込めるとのことです。

「私が定年退職する3年後、娘の仕事も軌道に乗っているでしょうし、そのころには新型コロナウイルスもある程度落ち着いているでしょうから、心おきなく渡米し、米国での第2の人生をスタートさせます。ボストン郊外にある緑豊かな場所に、一軒家を購入するんです」

 一人娘の教育に人生を捧げ、その娘は立派に独り立ちしつつある。3年先を見据えながら、Xさんは自らの「理財人生」を成功だったと振り返っていることでしょう。