8:中国経済は大丈夫でも、軽視できない政治リスク?
世界で最初に新型コロナウイルス感染拡大を経験した中国はコロナ危機から最も早く経済が立ち上がり、しかも感染は総じて抑制された。2021年も経済の復調が続き、大きく落ち込んだ2020年からの反動で+8%の高い成長が予想される。特に2021年前半は、外食・旅行などのサービス消費の回復を背景に高成長となり、中国の経済のリスクは限定的だろう。
一方、米国のバイデン政権は強硬な対中外交、安全保障政策を繰り出すとみられるが、中国政府は新型コロナウイルス克服で自信を強めている。習近平体制を盤石にしたいとの国内事情を背景に、米国をはじめとした諸外国に対して強硬な外交、軍事姿勢を強め、南シナ海域、台湾、北朝鮮などで地政学的な緊張が高まる展開が想定される。蓋然(がいぜん)性は低いが、軽視できないリスクシナリオだろう。
9:欧州発の世界経済停滞リスク?
2021年、ドイツではメルケル独首相が退陣するとともに、秋口に総選挙が行われる予定。メルケル首相の後任人事選定、ポピュリスト政党の躍進などで、ドイツの政治情勢が不安定化する可能性がある。
また、ドイツでは2021年早々から、新型コロナウイルス対応で付加価値税を引き上げるなど経済復調が緩慢な中で、財政政策が緊縮方向に転じるリスクがある。欧州復興基金の創設によって拡張的な財政政策を継続する仕組みが整ったが、政治的な反対などから復興基金の枠組みがしっかり機能せずに、欧州経済の停滞が長期化するリスクがある。欧州の混乱が、世界経済の回復にブレーキをかけるのがリスクシナリオとして想定される。
10:新興国が大幅な資金流出に見舞われる?
2020年は世界的な金利低下と、各国の中央銀行による潤沢な流動性供給の拡大を受けて、年後半にはいわゆるリスクアセットの新興国株式、債券への資金流入が大幅に増えた。一部の高金利通貨を除いて、対米ドルで見た新興国通貨は夏場から上昇が続いた。ただ、トルコ、アルゼンチンといった高インフレ国では、既に自国の金融緩和政策によって経済を安定化することに失敗、インフレ率が加速している。
2021年には、多くの新興国の金融緩和サイクルが収束するとみられ、トルコと同様にインフレ安定に失敗して、通貨安と資金流出に直面する新興国が増えるかもしれない。コロナによる経済的なダメージが長引き、政治情勢が不安定化、さらにソブリン債務不履行や格付け会社の格下げに直面する新興国が増える可能性がある。2020年に起きた新興国への世界のマネーの流入が、2021年に資金流出に転じるリスクがある。
村上尚己(むらかみ・なおき)プロフィール
アセットマネジメントOne株式会社運用本部調査グループ、シニアエコノミスト。
東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。