米国が世界経済の回復をけん引、リスクは日欧中の政治情勢

アセットマネジメントOne株式会社
村上尚己

 2021年は、新型コロナウイルスのワクチン普及でサービス・消費全般の復調が予想される米国がけん引する格好で、世界経済の成長が持続。米国企業を中心にEPS(1株あたり純利益)の上振れが見込まれることが、株式市場の上昇要因になると予想する。

 一方で、日本、中国、欧州の政治情勢が不安定化し、複数のリスクシナリオが顕在化することも想定され、これらが株式市場のリスクになるだろう。

2021年はこうなる!10大予測
1 米国経済は+4%の高成長
2 米国政治の最大のリスクは年明け早々に訪れる
3 米株市場、年央までは株高
4 日本株市場が米国株をアウトパフォームするか
5 菅政権の政権基盤が揺らぎ政治情勢が不透明に?
6 100円を目指し緩やかな円高
7 カーボンニュートラルブームで日本企業が変わる?
8 中国経済は大丈夫でも、軽視できない政治リスク?
9 欧州発の世界経済停滞リスク?
10 新興国が大幅な資金流出に見舞われる?

1:米国経済は+4%の高成長

 米国経済は2021年も経済復調が続き、世界経済の成長をけん引。2020年半ばから新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われたが、経済活動の復調が続いた。金融・財政政策の押し上げ効果で主要先進国の中で最も早く回復したが、2021年も政策効果が経済成長を後押しする見通し。さらにワクチンが普及するとみられ、新型コロナウイルスの感染拡大によって売上が激減した接触型サービス業の回復が経済成長の新たなドライバーになる。このため、2021年の米国経済は+4%前後の高成長を予想する。

2:米国政治の最大のリスクは年明け早々に訪れる

 バイデン米政権となっても共和党が上院で多数となれば、バイデン政権が議会からの制約を受け、所得再分配などの増税政策は実現が難しくなる可能性がある。米国政治が経済に悪影響を及ぼすリスクが大きく低下したことが、米大統領選挙の日から株式市場は上昇した最大の要因。2021年1月5日に行われるジョージア州の上院の決定選挙は、共和党候補が優勢とみられている。

 ただ、トランプ米大統領が選挙結果に異議を唱えたことなどで、共和党候補の優勢との状況が変わり、民主党候補が2議席を得るサプライズが起きるリスクがある。このリスクを市場がやや軽視しているとみられ、米国政治の最大のリスクが年初早々に訪れる。

3:米株市場、年央までは株高

 新型コロナウイルス感染拡大に対応する強力な財政金融政策への期待を背景に、2020年3月から株高が続き12月初旬にかけて主要株価指数は史上最高値を更新した。バイデン政権においても経済成長を後押しする政策対応が続き、経済の高成長がもたらすEPSの大幅な伸びによって、年前半までの株高を後押しする見込み。2020年はGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)など大型ハイテク銘柄の株高が、株式市場全体をけん引した。2021年は経済正常化が進むため、2020年までのようにハイテク株の成長期待で株価が押し上げられる状況が変わり、ハイテク株の変動が株式市場全体を揺るがす場面が訪れるとみる。

4:日本株市場が米国株をアウトパフォームするか

 2020年と同様に、米国株次第の状況が続くため、米株高につれて2021年前半には日経平均株価は3万円の大台をうかがう可能性がある。ただ、米国において株高のけん引役がGAFAMなどから幅広い銘柄にシフトする中で、同様に国際的に出遅れていた日本株の上昇余地が大きいとの見方があるが、日本株が米国株をアウトパフォームする可能性は低いとみる。デフレリスクに再び直面している日本では本来、大規模な経済安定化政策が必要だが、実際にはこれが不十分なものにとどまり、外国人投資家の日本株への期待が高まる可能性は低いだろう。

5:菅政権の政権基盤が揺らぎ政治情勢が不透明に?

 久々の平民宰相として菅政権は極めて高い支持で始動した。デジタル庁創設、規制改革、携帯電話の料金引き下げ、などの政策を、政治主導で官僚組織を動かし実現を目指している。一方で、GoToトラベルは経済的なダメージをうけた産業や中小企業を支援する政策だが、新型コロナウイルス感染抑制とのバランスに苦慮。また、医療体制の拡充や経済支援策などの財政政策をしっかりと実現する必要があるが、これらの対応が不十分にとどまるリスクがある。メインシナリオではないが、経済の停滞を長引かせて国民の支持を得ることに失敗、盤石にみられた菅政権の政権基盤が弱まるリスクがある。総選挙が行われる中で日本の政治情勢が不透明になるシナリオが想定されるが、これは金融市場ではほとんど想定されていないとみられる。

6:100円を目指し緩やかな円高

 2017年以降、ドル/円は103~115円のレンジで限られた値動きでの推移が続いた。特に2020年は、コロナ不況の到来によって、各国の株式や長期金利が大きくスイングしたが、こうした中でもドル/円の変動率はかなり限定的にとどまった。2010年代初頭までの日本のデフレ期待が和らぎ、FRB(米連邦準備制度理事会)と日本銀行の双方の金融政策が同様に動くという強固な期待が市場で形成され、それがドル/円の「超安定相場」をもたらした。2020年初の110円付近から極めて緩やかに104円台までドル安円高で推移したが、2021年も同様の緩やかなドル安が続くとみられ、100円前後まで緩やかな円高を想定したい。

7:カーボンニュートラルブームで日本企業が変わる?

 菅義偉首相は、2020年10月下旬の所信表明演説において、2050年までのカーボンニュートラルの実現を目指すと表明。また、米国では、バイデン次期米大統領が主催する「気候世界サミット」が2021年4月までに開催され、EU(欧州連合)では「炭素国境調整メカニズム」の具体案が明らかとなり4~6月期中に正式に採択されるなど、脱炭素化の動きが2021年に強まる。

 脱炭素化のためには、次世代蓄電池技術、水素発電技術、CO2回収・貯留によるバイオマス発電など、企業による技術革新が必要になる。国を挙げての技術革新が志向される中、多くの日本企業が新しい技術への投資を積極化させるかもしれない。これが契機となり企業行動が積極化して、消費税率引上げと新型コロナウイルスのダブルパンチで疲弊した日本経済が思わぬ高成長となり得る。可能性は低いが、ポジティブサプライズのシナリオとして頭の片隅にとどめておきたい。

8:中国経済は大丈夫でも、軽視できない政治リスク?

 世界で最初に新型コロナウイルス感染拡大を経験した中国はコロナ危機から最も早く経済が立ち上がり、しかも感染は総じて抑制された。2021年も経済の復調が続き、大きく落ち込んだ2020年からの反動で+8%の高い成長が予想される。特に2021年前半は、外食・旅行などのサービス消費の回復を背景に高成長となり、中国の経済のリスクは限定的だろう。

 一方、米国のバイデン政権は強硬な対中外交、安全保障政策を繰り出すとみられるが、中国政府は新型コロナウイルス克服で自信を強めている。習近平体制を盤石にしたいとの国内事情を背景に、米国をはじめとした諸外国に対して強硬な外交、軍事姿勢を強め、南シナ海域、台湾、北朝鮮などで地政学的な緊張が高まる展開が想定される。蓋然(がいぜん)性は低いが、軽視できないリスクシナリオだろう。

9:欧州発の世界経済停滞リスク?

 2021年、ドイツではメルケル独首相が退陣するとともに、秋口に総選挙が行われる予定。メルケル首相の後任人事選定、ポピュリスト政党の躍進などで、ドイツの政治情勢が不安定化する可能性がある。

 また、ドイツでは2021年早々から、新型コロナウイルス対応で付加価値税を引き上げるなど経済復調が緩慢な中で、財政政策が緊縮方向に転じるリスクがある。欧州復興基金の創設によって拡張的な財政政策を継続する仕組みが整ったが、政治的な反対などから復興基金の枠組みがしっかり機能せずに、欧州経済の停滞が長期化するリスクがある。欧州の混乱が、世界経済の回復にブレーキをかけるのがリスクシナリオとして想定される。

10:新興国が大幅な資金流出に見舞われる?

 2020年は世界的な金利低下と、各国の中央銀行による潤沢な流動性供給の拡大を受けて、年後半にはいわゆるリスクアセットの新興国株式、債券への資金流入が大幅に増えた。一部の高金利通貨を除いて、対米ドルで見た新興国通貨は夏場から上昇が続いた。ただ、トルコ、アルゼンチンといった高インフレ国では、既に自国の金融緩和政策によって経済を安定化することに失敗、インフレ率が加速している。

 2021年には、多くの新興国の金融緩和サイクルが収束するとみられ、トルコと同様にインフレ安定に失敗して、通貨安と資金流出に直面する新興国が増えるかもしれない。コロナによる経済的なダメージが長引き、政治情勢が不安定化、さらにソブリン債務不履行や格付け会社の格下げに直面する新興国が増える可能性がある。2020年に起きた新興国への世界のマネーの流入が、2021年に資金流出に転じるリスクがある。

村上尚己(むらかみ・なおき)プロフィール

アセットマネジメントOne株式会社運用本部調査グループ、シニアエコノミスト。
東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。