テーマ4:通信-NTTが仕掛ける価格競争-

1.NTTドコモの「ahamo(アハモ)」をどう評価するか

 2020年12月3日、NTTドコモは新料金プラン「ahamo(アハモ)」を発表しました。携帯電話料金の新体系です。概要は次の通りです。

  • 月間容量20GBで月額2,980円。
  • 2021年3月からサービス開始。オンラインのみで受付。対象年齢は20歳以上。
  • 1GBの容量追加で500円。5分以内の国内通話は無料。国内電話のかけ放題オプションは1月1,000円。
  • 4Gと5Gネットワークが使える。
  • 事務手数料は無料。
  • 世界82か国で20GBが利用できる。
  • キャリアメールは利用できない。

 全くの私見になりますが、アハモは画期的な料金体系です。これまで何年間も市場シェアがじりじりと下がっていたNTTとNTTドコモが反撃に打って出たのです。これは大きな変化と言うべきでしょう。

 また、NTTドコモでは、既存の料金体系の値下げも検討しているもようです。ただし、ニュースを読むと、大きな値下げにはならないかもしれません。

表3 移動系通信の契約数シェア

単位:%
出所:総務省
注:MVNOには3大キャリアの系列を含む。

2.日本の通信料金は大幅に下がるか

 アハモには足りないものもあります。通信会社が提供するキャリアメールは使えません。このキャリアメールが使えないということについては、年齢層によって評価が分かれているようです。若い世代は、キャリアメールはいらないと考える人が多いもようです。メールは、フリーメール、SNS、プロバイダーメールなどを使えばよいということです。私はキャリアメールは必要と考えていますが、これは一部の有料ニュースサイトなどでキャリアメールが認証手段になっているためです。そうでなければ、キャリアメールはなくても構いません。

 様々な考え方があるとは思いますが、アハモはまず20代、30代に普及すると思われます。その後、40代、50代にも普及していく可能性があります。そうなれば、日本の通信料金全体に下方バイアスがかかる可能性があります。20GBの月間容量は大きすぎるというユーザーも多いと思われますが、その場合は、容量と価格を引き下げたプランができる可能性もあります。

 ITmedia 2020年12月1日付けの記事によれば、2020年11月時点で日本のスマートフォンユーザーが通信会社に払っている平均月額料金は、3大キャリアユーザー(NTTドコモ、au、ソフトバンクのユーザー)が8,312円、格安SIMユーザーが4,424円、MVNOユーザーが3,771円となっています(元出所はMMD研究所)。アハモが普及すれば、この3分野の平均月額料金が下がることになります。特に3大キャリアユーザーが払っている料金は今後数年で大きく下がる可能性があります。

3.NTT=NTTドコモの今後の移動通信シェアに注目したい

 2020年6月末の移動通信の契約数シェアは、NTTドコモ37.1%、KDDI 27.6%、ソフトバンクグループ21.6%になります。この戦いは最終的には自己資本の戦いになるかもしれません。要するに日本の通信市場で価格競争が起きた場合、最後は体力勝負になるということです。自己資本を見ると、2020年9月末でNTTは9.7兆円(株主資本)、KDDIは4.6兆円(親会社の所有者に帰属する資本持分)、ソフトバンク(ソフトバンクグループ傘下の通信のソフトバンク)は1.1兆円(親会社の所有者に帰属する資本持分)になります。

 このまま行けば、NTTがシェアを大きく上げることも予想されます。もちろん、大幅値下げのためにNTTの移動通信事業はほとんど利益が出なくなるかもしれません。ただし、その場合、大幅に安くなった移動通信コストを使った付帯事業を外部から呼び込むことで、新たに稼ぐ道を探すことができるのではないかと思います。

 NTTの今後に注目しています。また、日本電気、富士通は、移動通信の基地局、光ファイバーネットワークの構築でNTTと密接な関係にあります。NTTが仕掛ける価格競争は、日本電気、富士通にとって基地局やネットワーク構築の値引きにつながる可能性があります。しかし、NTTのシェアが上昇すれば、日本電気と富士通がNTTから受け取るビジネスも増えると思われます。日本電気、富士通にも注目しています。

テーマ5:インターネット-アメリカ企業はバーチャルカンパニーを目指す?-

1.巣ごもった結果、企業と労働者の働き方が変わった

 日本でも世界でも、今年2月頃から会社や学校に行かず、在宅勤務、在宅学習がオフィスワーカーや学生の間で増えました。学生の場合は、ある程度学校に通ったほうが学習効果が上がると思いますが、仕事の場合はオンラインで完結することが出来るものが多いと思われます。

 アメリカでは、全部ではありませんが、多くのオフィスワーカー、知的労働者(弁護士、公認会計士、コンサルタント、証券アナリスト、ファンドマネージャー、上級から中級の技術者など)が在宅勤務を続けています。そして、このやり方が企業と従業員の双方にとって良いということが認知されるようになっています。

「良い」というのは、お金的に良いということです。従業員にとっては、郊外に住めば家賃が安くなります。通勤時間を使って仕事をしたり、仕事のための勉強ができます。アメリカでは、成果を挙げるとそれがより高い報酬やより有利な転職に結び付きやすいので、よく働く人が多いのです。

 企業にとっては、従業員が良く働いて成果を上げてくれるなら喜ばしいことです。オフィス面積も縮小できます。

 アメリカ企業は多くの場合、利益が出る方向性が決まれば、その方向に一斉に動く性質があります。そして、このような企業群のオンライン化を助けているのが「GAFAM」(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)です。高性能パソコン、データセンター用高性能サーバーを通じて高性能半導体も重要な役割を果たします。

 これに対して日本では、在宅勤務を行ってきた企業の中で、新型コロナ前に戻ろうという動きがでています。通勤電車に揺られて出社して、仕事帰りには飲みに行く生活に戻りつつある企業が多くなっています。競争相手が出社して対面営業を再開したので、同じことをせざるを得ない企業もあるもようです。

 今回の感染拡大は、GoToトラベルで感染した人たちが職場に戻って企業内クラスターの元になったケースが多いのではないかと私は思っていますが、こうして多くの企業が元の非効率な状態、そして感染リスクに曝された状態に戻っていくのでしょう。

2.日米企業の収益性格差はより一層拡大するのか

 一方で、アメリカ企業が進む方向は、「バーチャルカンパニー」なのかもしれません。バーチャルカンパニーとはインターネットが出来た時からある考え方で、企業活動の可能な限り全てをインターネット上で行うというものです。要するに、営業、調達、社内管理などのオンライン化です。

 バーチャルカンパニーが適用できる業界とそうでない業界がありますが、効果が大きい業界、企業では、大幅な業務の効率化が実現できます。ただし、成長戦略をとらなければ、業態によっては多くの余剰人員が出てしまいかねません。バーチャルカンパニーには負の側面もあります。

 日本でも実例があります。ネット証券です。同じ株式売買金額を上げるのに必要なコストを比べると、ネット証券と対面型証券では、人件費、システム費用、オフィス費用などを含めた総コストが8分の1から1分の1程度に下がるはずです。これは極端な例ですが、このような「効果」が出る場合、国や企業が成長戦略をとらなければ、大量の失業者が出てしまいます。多くの日本企業にとって、バーチャルカンパニーあるいは仕事の全面的なオンライン化は難しいかもしれません。

 結局、仕事のオンライン化、効率化へのインセンティブがある企業は、国際競争に曝されている一部の優良企業と、ベンチャー企業でしょう。ベンチャー企業にとっては、オフィスコストが軽くなって、従業員の生産性が上がることは歓迎すべきことでしょう。

 日本企業とアメリカ企業の収益力の格差は開くばかりかもしれません。こう考えていくと、日本の個人投資家も国際分散投資を真剣に検討すべき時が来ていると思われます。特に、アメリカ株、アメリカ上場株への投資は今後重要になってくると思われます。

本レポートに掲載した銘柄:東京エレクトロン(8035)アドバンテスト(6857)レーザーテック(6920)TSMC(TSM)AMD(AMD)アプライド・マテリアルズ(AMAT)ASML(ASML)シノプシス(SNPS)ソニー(6758)アミューズ(4301)東宝(9602)NTT(9432)日本電気(6701)富士通(6702)